研究課題/領域番号 |
21H01680
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
森田 一樹 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (00210170)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 熱伝導度 / アルミノホウケイ酸 / 溶融酸化物 / 局所構造 / 予測モデル |
研究実績の概要 |
鋼の連続鋳造用モールドフラックスの成分であるアルミノホウケイ酸(CaO-B2O3-Al2O3-SiO2)系の熱伝導度測定およびそのガラス化試料の局所構造解析を行った。また、第一原理計算を用いて構造単位の原子間の共有結合性の定量的評価を試みた。 熱伝導度測定は1300~1500℃の温度において実施した。実験した全ての組成において温度の上昇に伴い熱伝導度が低下した。組成との相関としては、CaO濃度が高いほど熱伝導度が低い傾向が見られた。これら2つの事実は、溶融酸化物における熱伝導がフォノンの伝達によるということを支持する。局所構造解析は、1500℃で溶融した試料を急冷しガラス化したものについてMAS-NMRにより測定を行った。それにより、各試料についてB及びAl原子の各配位数の存在比やSiの架橋酸素数についての情報を得ることができた。第一原理計算は溶融酸化物中の網目構造を構成する基本的な単位構造についてまず電子密度分布を計算し、それに対してワニエ関数計算を行うことで各結合の電子分布の平均位置を求めた。結合の中心位置からの電子の平均位置の変位(D(Å))が小さいほど共有結合性が高いことから、各配位数のAl、BやSi、Ca原子とO原子間の結合の共有結合性を定量的に評価した。Bの4配位構造が最も共有結合性が高く、Ca-O結合が最も共有結合性が低いという結果が得られた。 第一原理計算の結果とNMR測定の結果を合わせることで、各試料の平均の共有結合性を算出し熱伝導度値との比較を行った。その結果、平均の共有結合性と熱伝導度に正の相関関係を確認することができた。よって、共有結合性を指標として熱伝導度を推算する手法が有効であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第一原理計算を用いて求めたパラメータと構造解析で得られた局所構造データを合わせることで、本系試料の熱伝導度を概算することに成功した。本年度開発した推算手法の精度にはまだ改善の余地があるが、次年度課題として改良されると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
熱伝導度測定およびMAS-NMR測定を引き続き行う。特に、共有結合性が低く熱伝導度を低下させたり、AlやB原子に電荷補償することにより配位数変化をもたらしたりすると考えられるCaOの濃度を広く変化させた組成で実験を行い、本系の熱伝導度および局所構造データを拡充する。第一原理計算については計算に使用する構造を、融体試料中の網目構造をより再現したものとすることで、各結合の共有結合性算出方法の改善を目指す。そして、実験結果と合わせることで組成から熱伝導度を高精度に予測する手法を確立することを最終目的とする。
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