研究課題/領域番号 |
21H01688
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
内田 博久 金沢大学, フロンティア工学系, 教授 (70313294)
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研究分担者 |
島村 一利 金沢大学, 総合技術部(理工), 技術職員 (80869991)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 有機半導体 / 製膜 / 二酸化炭素 / 超臨界溶体急速膨張法 / 薄膜設計 / Ph-BTBT-10 / 有機薄膜トランジスタ / 高性能化 |
研究実績の概要 |
CO2を利用した超臨界溶体急速膨張法(RESS法)による有機製膜に及ぼす種々の操作因子の影響の解明を実施した。具体的には,有機半導体材料として2-Decyl-7-phenyl[1]benzothieno[3,2-b][1]benzothiophene(Ph-BTBT-10)を用いて,有機薄膜の特性に及ぼす操作因子である,1) 溶質溶解温度,2) 溶質溶解圧力,3) 噴射距離,4) 噴射時間,5) 基板温度,の影響を系統的に調査し,有機薄膜機構解明に繋がる基礎データの蓄積を行った。まず,噴射距離を0.5~5 mmと変化させ,1 mmが良好な薄膜創製に適切であることを示した。次に,溶質溶解温度323.2~373.2 K,溶質溶解圧力18~22 MPaで薄膜創製を行った。その結果,過飽和度が比較的低く,結晶成長時間が長くなることで結晶粒の結晶成長が促進され,薄膜内の欠陥が少なくなる溶質溶解温度323.2 K,溶質溶解圧力22 MPaが結晶特性と電気的特性(キャリア移動度)が良好な薄膜創製条件であることがわかった。また,基板温度を313~453 Kと変化させ薄膜を創製したところ,基板温度の上昇に従い結晶粒サイズは増大したが,結晶粒の結晶性は低くなり,電気的特性も低下することがわかった。これより,基板温度は373.2 Kが最適であることがわかった。最後に,溶体噴霧時間を150~240 sと変化させ薄膜を創製したところ,溶体噴射時間は薄膜の結晶構造や結晶性に影響を与えないことがわかった。しかし,溶体噴射時間の増加に伴い,薄膜の膜厚の増大,平滑性の低下及び結晶粒サイズの増大が生じ,非常に噴射時間が長い場合は薄膜に亀裂も生じた。これより,溶体噴射時間は180 sが最適であった。最適条件で作製した薄膜トランジスタのキャリア移動度は3~4 cm2/V sであり,非常に良好な性能を有していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
令和3年度は,CO2を利用した超臨界溶体急速膨張法(RESS法)による有機薄膜創製技術による有機製膜に及ぼす種々の操作因子の影響の解明を実施した。具体的には,有機半導体材料として2-Decyl-7-phenyl[1]benzothieno[3,2-b][1]benzothiophene(Ph-BTBT-10)を用いて,有機薄膜の特性に及ぼす操作因子である,1) 溶質溶解温度,2) 溶質溶解圧力,3) 噴射距離,4) 噴射時間,5) 基板温度,の影響を系統的に調査し,有機薄膜機構解明に繋がる基礎データの蓄積を行った。令和3年度は,当初の計画通りに,上記の5つの操作因子がRESS法によるPh-BTBT-10製膜に及ぼす影響を明らかにした。まず,「噴射距離の検討」により適切な噴射距離を決定し,「溶質溶解温度」および「溶質溶解圧力」の影響の検討により薄膜を構成する結晶粒の核化・成長挙動への過飽和度の影響を明らかにした。これにより,最適な噴射距離と過飽和度を決定することができた。また,適切な噴射距離と過飽和度において,種々の基板温度下で噴射時間を変化させ(基板温度と噴射時間の検討),核発生・結晶成長速度や成長プロセス(律速段階)を明らかにすることができた。これらの成果に基づき,キャリア移動度が実用化基準である1 cm2/V sを大きく上回る3 cm2/V sを超える高性能有機薄膜トランジスタの創製が可能となる溶質溶解温度,溶質溶解圧力,噴射距離,噴射時間および基板温度の製膜条件を提案することができた。つまり,本研究課題の現在の進捗状況は当初の計画以上に進んでおり,非常に良好である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,CO2を利用したRESS法による有機製膜に及ぼす種々の操作因子の影響の解明を実施する。具体的には,有機半導体材料としてPh-BTBT-10を用いて,有機薄膜の特性に及ぼす操作因子である,1) 基板表面状態[基板の洗浄方法と自己組織化単分子膜(SAM)による基板表面処理]と2) 薄膜のアニール処理(熱処理),の影響を系統的に調査し,薄膜設計の指針を明らかにする。まず基板表面状態の影響検討では,SiO2/Si基板の洗浄方法による洗浄効果を検討する。有機溶媒洗浄,SPM(硫酸/過酸化水素水)洗浄及びUVオゾン洗浄を基板に行い,それらの影響を調査する。さらに,種々のSAM処理により,表面エネルギーや有機半導体材料との親和性を変化させ,RESS法による薄膜創製に及ぼすSAM処理(基板表面状態)の影響を検討する。検討するSAMとしては,SiO2絶縁層の処理に有用性が報告されているシランカップリング剤であるヘキサメチルジシラザン(HMDS),オクタデシルトリクロロシラン(ODTS)及びフェネチルトリクロロシラン(PETS)を用いる。種々の洗浄やSAM表面処理を施した基板は,接触角計/ぬれ性評価装置により接触角と表面自由エネルギー評価を行い,走査型プローブ顕微鏡(SPM)で表面状態の観察を行う。次に,これらの表面洗浄や表面処理を行った基板上に,RESS法で薄膜を創製し,その結晶特性を検討することにより,最適な基板の洗浄方法とSAM処理を明らかにする。最後に,薄膜のアニール処理の有効性,つまり薄膜を構成する結晶粒内の分子の再配向による垂直及び水平方向の分子配向性の向上の有効性を検討する。具体的には,最適な表面処理を行った基板上に,最適条件のRESS法で創製した薄膜に対して種々の温度と時間でアニール処理を行い,アニール処理の効果の有効性と最適なアニール処理条件を探索する。
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