研究課題/領域番号 |
21H01695
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
井上 元 九州大学, 工学研究院, 准教授 (40336003)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 混相流 / 多孔質構造 / 電気化学 / 粒子制御 / 直接計測 |
研究実績の概要 |
各種電池や分離システムで用いられる粒子堆積状多孔質層の形成方法である湿式作製過程を対象にし、電場印可による気泡発生と輸送挙動、そして多孔質構造の形成に関する基礎現象に注目しその機構解明を進めた。2021年度は固体高分子形燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell: PEFC)の緻密カーボン層(Micro Porous Layer:MPL)の材料となるカーボンブラックを用い、その混合スラリー液を、プレート電極とニッケルメッシュ電極の間に流しこみ、下部面から加熱し乾燥させて堆積層を製膜した。その際に電位印加時の気泡発生もマイクロスコープにより同時観察できる治具を作製した。印加電位、スラリー中のpH調整、水アルコール比の最適化により気泡発生を制御し、粒子集積構造中の細孔径をミクロ、マクロに制御できることを確認した。さらにエレクトロウェッティング効果より、下地基板との濡れ性も可変でき、塗布層の面内分布均一化も制御できることを確認した。これによりひび割れが生じない精密な堆積層を作製できた。またこの特殊構造を有するMPLをPEFCに組み込み、発電評価試験を行った。その結果従来構造と比較して、湿度環境に依らず出力性能が向上した。一般にMPLは外部供給される酸素の輸送抵抗体になる一方、電解質膜の含水性保持のためには有利となるため、高湿度・低湿度どちらの条件においても、高出力となる構造の実現は困難であった。一方本研究で作製した構造では、細孔構造が粒子間からなるミクロ構造と、気泡鋳型部分が開口したマクロ構造の複合化されたものとなり、それによりこのような出力性能の向上が達成できたと考えられる。以上、初年度は電場印可による気泡発生と多孔質構造の制御を立証することができ、またその効果を実際の燃料電池で確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画では本方法での粒子堆積層の構造制御のためには、多くの条件(混合条件、溶媒条件、印加電位、治具系の設計、乾燥条件など)の試行錯誤が必要であると考えていた。しかしながら、想定よりも早期にその最適条件を見出すことができ、そしてその作製した構造を燃料電池に組み込み、電気化学評価によりその効果を確認することができた。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度に狙いとする機能的な多孔質構造を本研究で提案する独自手法で作製することができた。本構造形成の機構解明をより詳細に把握するためには、各種計測技術の活用が不可欠である。2021年度にX線CTを用いたその場観察技術の活用について、関連研究機関の協力のもと、その見通しを立てることができた。今後は早期にその計測に着手し、機構解明とその理論構築を推進する。さらに電池に限らず多孔構造を用いる他分野との連携も積極的に図り、異分野研究者との交流を活発に行う。そしてこの新規プロセスに関する成果を早期に著名雑誌にて発表できるよう論文執筆を進める。
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