「微生物に対する微小プラスチックと合成界面活性剤の複合毒性効果」を「界面現象」として捉え、メカニズム究明を試みた。初年度において、曝露対象の微生物としてこれまでに報告者が頻用してきた出芽酵母(真菌の1つ)に限定し、粒子径100 nm程度の正帯電ポリスチレン(PS)粒子と陰イオン性・陽イオン性界面活性剤の複合影響効果の初期段階およびそれに対する分散媒体中のNaCl濃度(5~600 mM)の影響を解明することができた。次年度から2年間では、曝露対象微生物として、異なる菌体種だけでなく、同一菌体種を異なる培養環境(培養温度、富・貧栄養培地)で培養した菌体を用いた。当該年度において得られた研究成果の概要を以下に述べる。 出芽酵母を30℃で貧栄養培地中に液体培養すると、厚みが薄くて密度も低い細胞壁をもつ出芽酵母が得られた。このような出芽酵母の細胞膜健全性およびコロニー形成能力は、微小プラスチックおよび界面活性剤がない場合でも、分散媒体中のNaCl濃度(5~600 mM)に大きく影響された。これは、出芽酵母がNaClストレスを受けていたことを意味する。同様なNaClストレスが、大腸菌(グラム陰性細菌の1つ)およびルテウス菌(好気性のグラム陽性細菌の1つ)でも観察された。菌体生存にとって至適な媒体NaCl濃度が生理食塩水濃度付近(100~150 mM)であることが共通していたが、低・高濃度領域における挙動は菌体種や培養環境に大きく影響された。これらの菌体に対して粒子曝露したところ、負帯電PS粒子はどの媒体NaCl濃度(5~600 mM)においても菌体にほとんど付着せず、ほぼゼロの粒子毒性しか示さなかった。一方、正帯電PS粒子は媒体NaCl濃度が低くなるほど高い付着量を示したが、この「粒子付着による毒性発現」は前述の「NaClストレスによる毒性発現」と対比させて議論する必要がある。
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