研究課題/領域番号 |
21H01697
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高橋 厚 東北大学, 工学研究科, 准教授 (60357366)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 活性酸素種 / 低温大気圧プラズマ / 選択酸化 / 貴金属触媒 |
研究実績の概要 |
本年度は、金子研究室の金子俊郎教授、佐々木渉太助教の支援のもとプラズマ照射器を備えた回分反応システムを作製した。まず、純水へのプラズマ照射実験を行い、水中での活性酸素種の生成挙動の把握を行った。この際、過酸化物存在下で呈色するトリンダー試薬を用いて、プラズマ照射中に過酸化水素が生成する経時的変化を可視化し、その結果、活性種である過酸化水素は最初に気液界面付近で一気に生成した後、対流や拡散を伴う物質移動で溶液全体に進展することを明らかにした。一方で、溶存酸素濃度の違いは反応に大きく影響しないことが確認された。このことは、今後、連続フローシステム化した際に、プラズマ照射後の空間の制御によって、活性種と反応物との反応を容易に制御可能であることを示すものである。 また、モデル有機化合物としてグリセリンを用い、その水溶液へのプラズマ照射実験を行い、20Wの低電力下、常温常圧、5分の照射により、グリセリン転化率20%を得た。これは、貴金属触媒である金触媒を利用し、9.8気圧の純酸素条件下、60℃、30分で得られる転化率と同等であり、プラズマにより発生する活性酸素種でも貴金属触媒に匹敵する反応が進行することが裏付けられた。さらに、目的のグリセリン酸も、選択率20%と低いものの有意に得ることができた。さらに、pHの影響を検討した結果、強アルカリ条件では、金触媒下で生成するグリセリン酸が得られる一方、中性条件では、白金、パラジウム触媒で得られるグルタルアルデヒドが観察された。これは、従来の高価な貴金属触媒を用いる選択酸化に対し、プラズマ照射ではこれらの触媒なしに、pHの切り替えのみでそれぞれの選択酸化を進行させうることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度の研究実施計画通りに、研究を進めることができた。「項目①プラズマ照射器を取り付けたバッチシステムによる活性酸素種の生成・消滅挙動の定量的な把握」においては、呈色試薬を利用した活性種の可視化により、活性種の生成場所とその後の動きを把握することができ、時間軸を空間軸に置き換える本フローリアクターシステムにとって非常に有益な情報を得ることができた。また、「項目②モデル有機化合物の酸化挙動に及ぼすプラズマ照射条件の影響の評価とフローリアクター設計」においては、プラズマ照射下での酸化が貴金属触媒下に匹敵する反応進行度であることが示され、さらに、目的の選択酸化生成物も得ることができ、プラズマ照射による選択酸化の有効性を示すに至った。一方、得られた生成物選択率は低いが、これは当初の計画どおり、活性酸素種の混在するバッチシステムでは予想された通りであり、目的の空間再配置フローシステム構築の意義としても重要な情報となった。さらに、プラズマ照射下での反応においては、pHのスイッチのみで、触媒反応下の貴金属種の違いを表現できる可能性が示され、最終目標である触媒フリー選択酸化に向けても価値ある知見を獲得できた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の取り組みにより、水への低温大気圧プラズマ照射による実験から、反応器内での活性酸素種の生成挙動として、活性酸素種は気液界面付近でのみ生成が進行し、その後は対流・拡散によって溶液内に広がることを明らかにした。今後は、操作因子として、気相、特に界面近傍の酸素濃度、に特に着目し、活性酸素種の生成挙動のコントロールを試みる。また、他の重要な操作因子として、プラズマの電圧や反応温度の影響についても検討し、その結果を踏まえて、バッチシステム内での活性酸素種の生成・消滅を表現できる数理モデル構築を行う。また、モデル水溶液系としてのグリセリン水溶液を対象とした照射実験においては、前述の気相酸素濃度、プラズマ電圧、温度の影響についてさらに詳細な検討を行い、生成物分布とそれぞれの条件との関係を明らかにする。さらに、得られた結果に基づいて、水のみのバッチシステムにおける数理モデルを基に、活性酸素種とグリセリン、あるいは生成物との反応を考慮した数理モデルへと拡張し、有機物存在下、プラズマ照射を用いた活性酸素種による酸化モデルを構築する。そして、最終的な目標である活性種空間再配置型フローリアクターの設計指針を得る。また、プラスマ照射リアクターでは、pHの違いにより、活性種が変化し、それによって金やプラチナ、パラジウム触媒と同様の生成物を作り分けることが可能であることが示唆された。そこで、触媒下で得られる活性酸素種と生成物との関係をさらに詳しく調査し、これをプラズマ照射系での活性酸素種生成に対するモデル構築の際にフィードバックすることで、最終的な触媒フリーでの選択酸化に向けた知見蓄積へと繋げる。
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