本年度は、活性種空間再配置型フローリアクターの設計を目的として、バッチ式反応器にてグリセリン溶液を原料として、プラズマ源ガスに関する実験条件(ガス種、共存ガス)について検討を行った。その結果、Arを使用した場合、Heに比べ、転化率ならびに目的とするグリセリン酸の収率が増加することを見出した。これは、HeとArの電離電圧ならびに準安定電位の違いによるものと推定され、Arの方がHeよりも電離電圧が低く準安定電位との差が大きいために、Heに比べて容易にプラズマになるものの、状態は不安定となることにより、プラズマとして多くのエネルギーを注入、かつ、その不安定さ故に液面との接触面積が増加し、目的活性酸素種の量が増加し、反応が促進されたのではないかと考えられる。一方、共存ガスの影響として、Arに水蒸気またはO2を添加しても選択酸化挙動にポジティブな効果は得られなかった。通常、水蒸気はプラズマを安定させる目的で使われるが、本結果からは、選択酸化用途ではむしろプルームを不安定にしたほうが良い可能性が改めて示された。O2共存についても、O2は酸化力の強いラジカル生成に効果があるとされるため、選択酸化のような適度な酸化力を要求される場合にはむしろネガティブに働いた可能性がある。 ここまでに得られた知見を総合し、反応液を流通させながらプラズマ照射が可能な形へ反応器の改良を行い、連続フロー型反応器を構築した。まず水のみの反応実験を実施し、生成物である過酸化水素濃度が一定時間経過後一定となり、定常状態が達成されていることが確認された。そこで、実際にグリセリン溶液を通液し、流通反応試験を行ったところ、目的生成物であるグリセリン酸の生成が観察され、バッチ式の場合よりも選択率が増加する傾向が観察された。よって、流通条件下においてもプラズマ照射によって選択酸化を進行させることができることを実証した。
|