研究課題/領域番号 |
21H01708
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
福岡 淳 北海道大学, 触媒科学研究所, 教授 (80189927)
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研究分担者 |
小林 広和 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (30545968)
宋 志毅 北海道大学, 触媒科学研究所, 准教授 (80600981)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | セルロース / 固体触媒 / 結晶 / バイオマス / 加水分解 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、結晶セルロースを加水分解できる固体触媒を開発し、その加水分解反応機構を明らかにすることである。これによって、オリゴ糖やグルコースを効率的かつ経済的に合成できるようになれば、セルロースを原料とした再生可能化学品が現実的なものとなる。R4年度はボトムアップアプローチで触媒設計を行い、ピレンにセルロース加水分解の活性点となるカルボン酸を2個あるいは4個導入した4種の化合物を合成した:4-(pyren-1-yl)phthalic acid (4-PPA)、3-(pyren-1-yl)phthalic acid (3-PPA)、(E)-4-(2-(pyren-1-yl)vinyl)phthalic acid (4-vinyl-PPA)およびperylene-3,4,9,10-tetracarboxylic acid (PTA)。このうちPTA以外は新規化合物であり構造解析を進めた。この炭素化合物と結晶セルロースを乳鉢内で混ぜすりつぶして混合し、水に分散させて150℃で24時間加熱した。反応後、水中の生成物を液体クロマトグラフィーで分析したところ、PTA以外の3つの化合物でセルロース加水分解が起こり、グルコースが生成していることが分かった。グルコース収率は、4-PPAで5.8%、3-PPAで7.5%、4-vinyl-PPAで9.0%、PTAで0.6%であった。4-Vinyl-PPAではビニル基を導入することによりフタル酸部分の回転が容易になり、二つのカルボキシル基がセルロースのグリコシド結合に接近しやすくなるために加水分解が促進すると考察した。4-Vinyl-PPAを触媒として反応時間や基質/触媒比について検討すると、グルコースの最大収率は16%となった。もしセルロースの結晶部が加水分解されたとすれば、人工的な化学触媒によるセルロース糖化の初めての実証例となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでボトムアップアプローチによる触媒設計を行っており、ピレンにカルボン酸を複数導入した化合物を合成した。これらは新規化合物であり、触媒モデル化合物の合成は順調に進んでいると言える。これらを用いてセルロース加水分解を行うと、グルコースが最大収率16%で得られた。これは化学触媒による結晶セルロースの加水分解としては初めての結果であるが、結晶セルロース中に混在するアモルファス部分が加水分解された可能性があるので、本当に結晶部分が加水分解されたか慎重に検討したい。このように設計した触媒による結晶セルロース加水分解についてポジティブな結果が得られているので、順調に進展していると結論した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き結晶セルロース分解のために主にボトムアップ型の触媒設計を用いる。炭素の微小モデルから、結晶セルロース加水分解酵素であるセロビオヒドロラーゼの構造的特徴を模倣した材料を合成し、その触媒活性を調べる。これまでピレンにセルロース加水分解の活性点となるジカルボン酸を導入したものを数種類合成し反応に用いてきたが、(4-vinyl-PPA)を用いた時に結晶セルロースの分解活性の向上が観測された。これは、ピレン部分でセルロースに吸着し、触媒の二つのカルボキシル基がセルロースのグリコシド結合に接近し加水分解が可能になったと考えられる。よって、基質/触媒比や反応温度の効果などの反応条件を検討し、結晶セルロースの分解が起こっているか否かを確定させる。さらに、4-vinyl-PPAのピレン芳香環に置換基を導入して触媒を合成し、その反応性を検討する予定である。
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