研究課題/領域番号 |
21H01713
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
鎌田 慶吾 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 准教授 (40451801)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 触媒 / マンガン酸化物 / ナノ粒子 / OMS-1 / 酸化反応 |
研究実績の概要 |
本申請研究では、独自に開発した層状マンガン酸化物前駆体の低温での結晶化手法により合成したマンガン酸化物ナノ粒子触媒を用い、従来法で合成したマンガン酸化物では達成し得ない高難度あるいは新しい触媒反応系の開発を目的としている。今年度は、層状前駆体を低温で結晶化する手法をOMS-1に応用し、(3×3)トンネル構造を有するトドロカイト型マンガン酸化物ナノ粒子の一段合成と酸化触媒としての応用を行った。合成条件の検討を行い、前駆体の焼成温度、原料の過マンガン酸マンガン塩と二価マンガン塩のモル比、二価マンガン塩およびマグネシウム塩の種類が、生成物の結晶構造・結晶性・粒子サイズに影響を与えることを明らかとした。焼成温度について、200 ℃でOMS-1が生成し、300 ℃から徐々に構造は壊れ500 ℃で酸化マンガン(III)とスピネル型のマグネシウムマンガン系酸化物へと変化した。また、既報に基づき合成した結晶子径が28 nm程度の高結晶性層状前駆体からはOMS-1への相転移は起こらず、本合成法において低結晶性の前駆体超微粒子を用いることが重要であることがわかった。原料の過マンガン酸マンガン塩と二価マンガン塩のモル比は前駆体の結晶構造に影響を与え、OMS-1の結晶性は原料モル比の低下に伴い増加した。これらのOMS-1ナノ粒子触媒を用いて、分子状酸素のみを酸化剤としたアルコールやスルフィドの直接酸化反応を行ったところ、高活性なβ-MnO2などの従来のマンガン酸化物よりも穏和な条件下で高い活性を得た。反応後も触媒性能の低下がないために再利用可能であり、種々の基質(9種類)の酸化反応に適用できる固体触媒として機能した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
OMS-1は、1、2価の様々なイオンを脱挿入可能であり、触媒としてだけでなく電極材料としても研究される有用な化合物である。しかし、従来の合成法であるイオン交換を含む水熱合成法は、多段合成プロセスであることや溶解再析出による粒子粗大化といった課題があった。今年度に実施した、特殊な試薬を用いない多孔質OMS-1ナノ粒子の合成では、表面積は従来手法の報告値と比較しても最も大きな値であった。また、これらのOMS-1ナノ粒子はアルコールやスルフィドの酸化反応の優れた触媒となった。結晶性酸化物触媒についてはこれまで、粒子サイズの減少とともに表面活性サイト数が増加するものの、結晶性が低下することで、表面積が増加すると触媒性能が低下するというトレードオフの関係が報告されるのに対して、本研究で合成したOMS-1では、表面積と触媒活性に比例関係があることが確認され、触媒性能を低下させることなく、表面積を未踏領域まで向上させることに成功した。このように、非常に簡便な手法で従来合成法よりも優れた物性・機能をもつOMS-1超微粒子を合成できた成果より、計画以上に進展していると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
合成したマンガン酸化物ナノ粒子触媒の「優れた酸化力」「酸化-酸塩基共同作用」「メソ細孔中の特異的なナノ空間」等を用いて、従来法で合成したマンガン酸化物を凌駕する触媒活性あるいは達成困難な新しい触媒反応系の開発を行う。具体的には、強い酸化力と酸塩基特性を利用した分子状酸素のみを酸化剤としたワンポット反応を検討する。また、触媒と基質・反応剤との反応(平衡・速度)を、種々の分光法や同位体を利用して検討し、各種反応の反応機構の解明を行う。特に、高次選択性の制御を目的とした触媒反応特性は活性化された基質・反応剤の活性化様式・活性種の構造と極めて密接な関係にあるため、低温でのその場観測などによる活性種の同定・活性中間体の単離についても検討する。量子化学計算による反応機構解析、基質・酸化剤・金属活性点構造の違いによる反応性変化の予測を行い、触媒設計にフィードバックする。
|