研究課題/領域番号 |
21H01715
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
影島 洋介 信州大学, 学術研究院工学系, 助教 (20821846)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 光触媒 / 水分解 / リン酸系官能基 / マストランスファー / シランカップリング修飾 |
研究実績の概要 |
本研究では、光触媒粉末表面に固定化したリン酸系官能基を介した反応物マストランスファーの促進に関する、新たな学理を構築することを目的とする。既往の「水分解用光触媒の開発」は「材料そのものの開発」が主流であり、「溶液内での物理化学現象」の理解・制御はほとんど見落とされてきた。最近、ホスホン基を有するシランカップリング剤を光触媒表面に修飾することで、ホスホン基がプロトン供給を促進し、水からの水素生成活性を向上可能であることを見出した。固液界面での物理化学現象(反応物拡散)の能動的な制御を目指す、「光触媒研究」における新たな学問領域の開拓に資すると期待できる。 本年度は、主に「1.シランカップリング処理条件の改良による水素生成活性の向上」、「2.ホスホン基を介した反応促進の機構解明」、「3.様々な光触媒材料に対する適用可能性の検証」を行った。 1の検討では、近赤外領域の長波長光まで吸収可能な水素生成用Cu2(Sn,Ge)S3 (CTGS)光触媒粉末に対するシランカップリング剤修飾量を、含侵法によって制御することで、水素生成活性を向上可能であることを見出した。2の検討では、500 nm程度までの可視光に応答するLa,Rh共ドープSrTiO3 (La,Rh:STO)粉末を用い、反応速度のpH依存性に基づく反応機構の考察を試みた。この時、回転ディスク電極 (RDE)を用いた電気化学測定を併せることで、活性点近傍での緩衝作用が寄与していることを明らかにしつつある。上記1と2の検討を通して、可視~近赤外領域に吸収端波長をもつ複数の光触媒粉末に対して、ホスホン基修飾の効果が確認された。また、これらの検討に関連する各種水分解用光触媒粉末材料そのものの開発・解析も併せて行っている。 これらの成果の一部は既に国内学会・国際学会において報告しており、近いうちに国際学術誌へ投稿できる見通しが立っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、あらゆる光触媒材料に対して、反応駆動中のプロトンマストランスファーを促進し、その光触媒活性向上に寄与するレベルまで、リン酸系シランカップリング修飾の手法としての汎用性を押し上げるとともに、そのメカニズムの定量的な解明を目指す。本年度は主に「1.シランカップリング処理条件の改良による水素生成活性の向上」、「2.ホスホン基を介した反応促進の機構解明」、「3.様々な光触媒材料に対する適用可能性の検証」を行い、以下に示すような新たな知見が得られている。 1の検討では、CTGS粉末に対してホスホン基を有するシランカップリング剤を含侵法によって修飾することで、修飾量の制御を試みた。ホスホン基修飾量の増大に伴って水素生成活性が飛躍的に向上したが、修飾量が多すぎると(5wt%以上)逆に活性が低下することが分かった。これは、過剰量のシランカップリング剤が、光触媒表面の酸化反応場を覆ってしまうためと考えられる。 2の検討では、ホスホン基を修飾したLa,Rh:STOの水素生成活性のpH依存性を評価した。酸性領域よりも中性~弱塩基領域の方が、ホスホン基修飾による水素生成活性の向上がより顕著であった。RDEを用いた電気化学測定では、ホスホン基を修飾した場合に、還元電流の経時での減衰が抑制されている、すなわち反応駆動に伴う電極界面でのpH勾配が抑制されていることが確認された。 上記1と2の検討を通して、可視~近赤外領域に吸収端波長をもつ複数の光触媒粉末に対して、ホスホン基修飾の効果が確認された。ただし、極端にバンドギャップの大きい紫外光応答型酸化物材料では、酸化力の高い光励起正孔によってシランカップリング剤が劣化してしまうため、活性向上への寄与が見られないことが分かった。 以上の結果から考えて、おおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
ホスホン基修飾による水素生成活性向上のpH依存性と修飾量依存性について、回転リングディスク電極 (RRDE)を用いた電気化学測定を利用して評価することで、より定量的な機構解明へと展開予定である。RDEを用いた本年度の検討を通して、ホスホン基修飾による効果を還元電流の経時での減衰によって間接的に評価可能であることを見出しつつある。リング電極を用いて電極近傍の局所的なpHの変化をモニタリングすることで、より直接的かつ定量的な反応ダイナミクスの解明を目指す。 また、引き続きシランカップリング処理条件の改良を通して、更なる光触媒活性の向上を目指すとともに、表面に固定化されたリン酸系官能基が水素生成・酸素生成反応へと及ぼす効果とそのメカニズムを個別に明らかにする。例えば、過去の報告ではアニオン性部位が1か所のみのメチルホスホン酸基を有するシランカップリング剤を用いていたが、加水分解後にアニオン性部位を2か所有するホスホン酸系シランカップリング剤への代替、またはホスホン基含有シランカップリング剤のポリマー化等の検討によって、リン酸系官能基を高濃度化し、水素生成活性の更なる向上を試みる予定である。この時、シランカップリング処理時や反応駆動時のpHが、シラノール部位の吸着様式や光触媒活性に及ぼす影響を系統的に評価したり、前述のRRDEを用いた電気化学的評価と併用したりすることによって、反応促進の機構解明へとつなげるとともに、更なる活性向上へとフィードバックを行う。
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