本研究では、1細胞ゲノミクスとマイクロ流体技術を活用して、環境試料に存在する微生物の素性を明らかにし、最適な培養法を設計する「ゲノムデータに基づく 戦略的微生物培養プロセス」を開発することを目的とした。「新規・有用種の存在・特性を事前に検知し、培養条件を事前に最適化して対象物を釣り上げる」という合理的なアプローチを微生物培養に採用することを検討した。対象試料中の微生物種の推定と培養法の最適化には、未培養微生物の全ゲノム情報の網羅的取得が求められる。そこで、代表者が開発した網羅的なシングルセルゲノム解析技術(SAG-gel)を基盤技術として用いた(Chijiiwa et al. Microbiome 2020)。 シングルセルゲノム解析により得た未培養細菌ゲノムデータからファージ由来遺伝子を探索し、ファージ由来の細菌細胞壁結合分子を選抜し、これを細胞標識や分離に活用する技術開発を進めた(Hosokawa et al. J. Biosci. Bioeng. 2023)。実際に、本手法で口腔内細菌から連鎖球菌を単離し培養できることまでを確認した。この方法を応用し、ヒト腸内細菌ゲノムからファージ分子を探索し細胞壁結合分子を多数人工的に作り出し、その結合の特異性などを評価した。今後、これらの知見を活用することで、従来濃縮や単離が難しかった微生物を対象とした分離・培養の実行が期待できる。また、細菌に対応したシングルセルトランスクリプトーム解析技術の改良を進め、従来よりも高感度に遺伝子発現を検出する方法を確立した(Nishimura et al. J. Biosci. Bioeng. 2023)。本技術は、多様な細菌集団中において細胞単位の遺伝子発現状態を解明することに今後活用可能であり、また、各種単離培養条件における微生物の活性状況評価などにも役立つと期待される。
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