研究課題/領域番号 |
21H01740
|
研究機関 | 四国学院大学 |
研究代表者 |
鈴木 望 四国学院大学, 文学部, 助教 (00779845)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | キラル / 両親媒性分子 / 分子集合体 / ヘリケート / らせん高分子 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は次の様に定めている。 (目的1)親水部に左・右の構造が可換な立体配座を有する両親媒性分子を設計することで、周囲の不斉環境への応答性を発現させ、キラルセンサー及び新規光学分割法を開発する。 (目的2)生命誕生初期に存在したと考えられる両親媒性分子やアミノ酸などの有機分子が不斉増幅を示す系を確立し、生命ホモキラリティーの謎の解明に繋げる。 (目的3)不斉構造の不斉環境への応答性を明らかにするための理論解析手法を開発する。 まず、(目的1)について、2022年度は親水部に左右の構造が可換な不斉構造を有する両親媒性分子の円二色性(CD)スペクトルを用いた物性評価を進めた。「作製した球状ミセルは不斉増幅現象を発現するか?」「キラル化合物との相互作用により、アキラルな両親媒性分子に光学活性を誘起できるか?」などを調査したが、現在のところ、不斉の増幅・光学活性の誘起は確認できていない。今後は実験条件を変更して検討する予定である。次に、(目的2)について、DとLのどちらか一方が多いDL-アミノ酸を溶質として、脂肪酸を溶かした緩衝液をキャピラリー電気泳動の泳動液として用いた場合、D及びL-アミノ酸が光学分割されるenantiomer self-disproportionationが可能かを検討したが、現在のところ、明らかな分離は観測できていない。今後はHPLCで報告されている条件をキャピラリー電気泳動で再現することを目指す。(目的3)について、2022年度は、Voronoi分割を利用した分配係数の評価、並びに、Rubingh及びTreinerらによる正則溶液理論に基づく評価をするための理論を構築した。また、Markov Chain modelを用いて三成分混合ミセルの臨界ミセル濃度や分配係数を明らかにする理論構築を実施した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、(目的1)について、2022年度は、「不斉増幅現象の発現」や「不斉配座の誘起」を達成する前段階として、両親媒性分子がミセル形成をする溶媒条件や、両親媒性分子の設計の検討を行った。特に水中ではミセルが難溶解性であるなどの問題があり、有機溶剤との混合条件などの検討が必要であった。また、当初予定していた分子骨格の他にトリチル基を有する両親媒性分子の合成なども完了した。「不斉増幅現象の発現」や「不斉配座の誘起」については、現在検討を開始した段階であり、今後の進展が期待される。本年度は特に(目的3)について大きな進捗があり、混合ミセルに関する三報の論文を報告することができた。既に研究概要で述べたとおり、2022年度は、Voronoi分割を利用した分配係数の評価、並びに、Rubingh及びTreinerらによる正則溶液理論に基づく評価をするための理論を構築し、研究論文として報告している。Voronoi分割を利用した分配係数の評価は研究代表者が独自に開発した手法であるが、一般的には正則溶液理論に基づく手法の方が、広く利用されている。また、正則溶液理論に基づく理論構築の過程で、コポリマーの評価に用いられるMarkov Chain modelが混合ミセルにも応用可能であることが分かり、Markov Chain modelを用いて三成分混合ミセルの臨界ミセル濃度や分配係数を記述する理論を構築することができた。三成分混合ミセルの研究は、二種類の両親媒性分子に薬剤などの第三の成分が取り込まれる様な状況において、キラルな両親媒性分子とアキラル両親媒性分子が協同的に不斉識別をする現象を捉える上で必要である。本成果についても研究論文として発表することができた。
|
今後の研究の推進方策 |
まず、(目的1)については、今後は、合成した両親媒性分子を用い、両親媒性分子の不斉増幅や、光学活性の誘起を観測するための実験をすすめる予定である。もしも、不斉増幅や光学活性の誘起が困難であれば、キラル両親媒性分子としての光学分割能の評価や、アキラル/キラル両親媒性分子からなる混合ミセルを形成させ、協同的な不斉識別を示すかどうかを明らかにする予定である。 次に、(目的2)については、enantiomer self-disproportionationの発現がHPLCでは報告されているものの、キャピラリー電気泳動では報告がないため、既報の条件をキャピラリー電気泳動で再現することを目指す。 最後に(目的3)については、まず、(1)1:1のホストゲスト相互作用の様に左右の配座をもつホスト分子がキラルゲストとの相互作用を介して不斉構造が誘起されるメカニズムを記述する理論を構築し、その理論を元に(2)二次元方向に配列した両親媒性分子の不斉構造の誘起に関する研究へと展開する。(1)については論文の投稿には至っていないものの、理論の大枠は完成している。また、本研究と直接的な関係はないものの、(1)の研究は、(3)1:2のホストゲスト相互作用への展開や(4)高分子への展開が可能であることがわかっている。(3)や(4)については、これまで多くの実験がなされてきたものの、数式に基づいた理論解明がほとんどなされていない。(3)や(4)の理論構築は、ヘリケートやらせん高分子がキラルゲストとの相互作用によってどのように不斉構造の誘起や不斉増幅が起こるのかに関する深い洞察を与える可能性がある。
|