研究課題/領域番号 |
21H01742
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
多田 朋史 九州大学, エネルギー研究教育機構, 教授 (40376512)
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研究分担者 |
谷口 正輝 大阪大学, 産業科学研究所, 教授 (40362628)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 量子コンピュータ / トンネル伝導 / 単分子 / 分子軌道 / 逆問題 |
研究実績の概要 |
科学技術の発展により、いまや人類は単原子や単分子を実験的に観測・操作する技術を手にするに至った。これは、自然界の現象のみならず我々の生活に関わる出来事を究極的に細分化した際、単原子や単分子レベルでその現象の原因を追究できる可能性を手にしたことを意味する。新型ウイルスの脅威と闘い続けねばならない人類の宿命を考えた際、この可能性は人類にとって大きな希望である。しかし現状では、小さな母集団の中から単分子を識別する場合であっても数時間から数日を要し、この状況の打開が急務である。本研究は分子に流れる多様なトンネル電流を分子軌道理論を用いたトンネル伝導経路のパターン化と、その伝導パターンを量子コンピュータで高速分離することで分子識別時間を飛躍的に加速しうる新手法を確立するための基盤研究である。 本研究は、多田(代表者)と谷口(分担者)による基盤研究であり、多田が量子回路構築、量子コンピューティング、成果発表、成果取りまとめを担当し、谷口が分子伝導計測を担当する。DNAの基本塩基分子である、アデニン、グアニン、チミン、シトシン、それぞれの電極とのナノコンタクトの第一原理計算に加え、各塩基分子において一部末端水素をメチル基で置換した修飾塩基分子についても第一原理計算を実施し、トンネル伝導経路とトンネル伝導パターンの計算データ取得を行った。これら計算データを伝導計測データと比較することで、限られた時系列データのみから単分子を特定するという総合的見地から、単分子識別において有効となる量子回路の設計指針を考案した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
単一分子に流れる多様なトンネル電流経路を量子コンピュータ上で高速分離するには、単一分子上の量子輸送過程を量子回路として記述した上で、量子コンピュータで高速に分子識別するための量子アルゴリズムを構築する必要がある。R4年度は、DNAの基本塩基分子である、アデニン、グアニン、チミン、シトシン、それぞれに対して末端修飾を含めた修飾塩基分子と対向電極とのナノコンタクト(電極との分子接合)の第一原理計算を行い、想定される伝導経路の検討を行った。分子識別するための最小量子回路モデル(5量子ビット系)を考案し、観測された伝導データをデジタルデータにエンコードすることで、実測の伝導データとIBM-Q量子コンピューティングシステム(実機)を用いて分子識別のデモンストレーションに取り掛かったところ、識別強度をより高める必要性があることが判明した。量子輸送のための分子軌道理論は、個々の分子特有の情報を含んでおり、それゆえ、今回の手法は他種の分子系に対する伝導量子回路モデルを効率的に生成できる可能性のある手法であるが、今回の手法と既存の量子アルゴリズムとを併用することで分子識別強度を向上さるアルゴリズムへと発展させる可能性を提示した。
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今後の研究の推進方策 |
R4年度はDNAの基本塩基分子である、アデニン、グアニン、チミン、シトシン、それぞれに対して末端修飾を含めた修飾塩基分子と対向電極とのナノコンタクト(電極との分子接合)の第一原理計算を行い、想定される伝導経路や伝導パターンの検討を行った。実測の伝導データとIBM-Q量子コンピューティングシステム(実機)を用いて分子識別のデモンストレーションを実行したところ、識別強度をより高める必要性があることが判明した。本手法の特徴である量子輸送のための分子軌道理論は、分子個々の情報を含んでおり、それゆえ、今回の手法は他種の分子系に対する伝導量子回路モデルを効率的に生成できる可能性のある手法であるが、今回の手法のみによる分子識別には限界があるため、既存の量子アルゴリズム(例えば、データ探索アルゴリズムなど)と併用することで分子識別強度を向上さるアルゴリズムへと発展させる手法の必要性を見出した。次年度は、そのようなハイブリッドタイプのアルゴリズム開発を行う。
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