研究課題/領域番号 |
21H01750
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
介川 裕章 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 磁性・スピントロニクス材料研究拠点, 主幹研究員 (30462518)
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研究分担者 |
柳原 英人 筑波大学, 数理物質系, 教授 (50302386)
三浦 良雄 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 磁性・スピントロニクス材料研究拠点, グループリーダー (10361198)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 磁性薄膜 / トンネル磁気抵抗効果 / スピネル / スピントロニクス素子 |
研究実績の概要 |
本課題はトンネル磁気抵抗(TMR)比の室温での巨大化を磁性層/バリア界面状態の改善により実現することを目的としている。TMR比の向上にはこの界面での状態の制御が非常に重要であり、界面近傍の結晶性の改善や原子スケール欠陥の抑制が必要である。このため今年度はTMR比の大幅向上を最近達成したFe/MgO/Fe構造を持つ単結晶磁気トンネル素子(TMR素子)の構造をもとにし、MgOバリアに代えてMgAlOスピネルバリアを開発することによって格子整合性の改善による界面制御の可能性を探った。MgAlOバリア作製にはMgリッチ組成を持つMg-Al-O焼結体(Mg4Al-Ox)を原料とし、電子線蒸着法による成膜を行い熱処理条件などの積層化プロセスを最適化することで高品位単結晶Fe/Mg4Al-Ox/Fe(001)素子をMgO単結晶基板上に形成した。この素子において従来のFe/MgO/Feの場合よりも界面欠陥を抑制することに成功し、TMR比の向上が観察された。室温ではMgOの417%から429%へ、低温では914%から1034%へ増大しFe電極を用いたTMR素子の最大値を更新した。この低温の値は理論計算で予測されるFe/MgO/Fe素子の1000%を突破し、理想的な素子に近づいたためと考えられる。また、開発した素子では電圧方向による電流電圧(IV)特性の非対称性が非常に小さいことがわかった。また、平行磁化配列のIV特性には明瞭な界面準位の形成を示唆する特徴が観測された。これらの結果は、MgAlOバリアを用いた格子整合化によって上下両方の界面状態の改善が進んだことを示唆しており、さらに巨大なTMR実現のための重要なステップであると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の推進によりFe磁性層を持つ素子のTMR比の最大値を更新した。特に低温では理論計算値に迫る大きな値を実現した。界面構造の改善と材料探索が進めばさらなる効果巨大化が早期に実現することが期待されることから順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度によって実現したMgAlOスピネルバリア技術を活用し、界面材料の開発を行うことでTMR比のさらなる向上を目指す。上下両方のバリア層界面に対し1 nm程度の厚さのナノ挿入層を導入することで界面状態制御が可能であると期待される。このためCo基合金や新規酸化物などの新規ナノ挿入層材料の探索を進める。 また、TMR比が向上するに従い、バリア厚さに対して約0.3 nm周期でTMR比が大きく振動する現象も増大傾向にある。現在知られている理論計算ではこの振動現象は十分再現することができておらず、物理メカニズムの解明がTMR比のさらなる増大にも必要となると考えられる。このため系統的かつ信頼性のより高い実験データ取得を行うことに加え、より高度な理論モデル構築も進めこの現象の解明を目指す。
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