本年度は当初の計画通りグラフェンをアッセンブリしたナノ流路を用いた①電気シグナルの計測、②その場ラマン測定、③流体解析を行った。①では、外部負荷抵抗を接続し、適切な負荷によって出力を最大化した条件で検証を行った結果、発生する起電力は流速に依存して線形に増加することがわかった。また、流路内に設置するグラフェンの位置に依存して電気シグナルの大きさとばらつき(分散)が変化することがわかった。そこで、流動存在下における②その場ラマン分光を実施しグラフェンの電子状態解析を行った。グラフェンの電子状態は、流速と流路内の設置位置に依存する流れの状態(上流から下流にかけて乱流から層流に遷移する)に影響を受け、低流速、および上流部ではp型のドーピング状態を示し、高流速、および下流部ではn型へシフトすることが明らかになった。このことは、流れの状態がグラフェンの電子状態を変化させることを意味しており、起電力発生メカニズムの一部を明らかにしたことになる。さらに、数値シミュレーションによって流体解析を行った結果、上述した流動状態の遷移を可視化すること成功した。流体解析では、時間的、空間的な流動の発達過程も検証した。特に空間的な流れの状態は流路内において連続的に発達し、起電力の絶対値との相関解析によって起電力発生に有効な流れの状態を見い出すことに成功している。 さらに流動駆動型デバイスの検証を行い、グラフェンをチャネルとするトランジスタと同等のデバイス特性を得られる可能性を見い出している。このとき、ゲート電圧を印加する代わりにグラフェンを保持する基板の表面電位によって流れる電流を制御可能である。また、電解質溶液を用いることで電流と電圧を数倍まで増加させることが可能であることを実証した。 以上のように、当初の目的を概ね達成できたと考える。
|