研究実績の概要 |
第四世代型フェニルアゾメチンデンドリマーを分子鋳型として用いて、塩化鉄を4, 12, 28, 60当量集積した。得られた集積体をカーボン担体に担持し、水素下熱炭素還元法により還元及び炭化を行った。電子顕微鏡像から、サブナノサイズのクラスター粒子を確認した。エックス線吸収微細構造測定により、クラスターは炭化鉄であることが分かった。また室温より高温側の磁気測定から、炭化鉄に対応するキュリー点が確認された。更に磁場磁化曲線を測定し、極低温及び室温で磁気ヒステリシスを示す強磁性体であることが分かった。磁石としての強さの指標である保磁力は、クラスターサイズが小さいほど強いことが分かった。また、磁場中冷却及びゼロ磁場冷却の磁化曲線から、室温以上のブロッキング温度を確認した。したがって、これらの炭化鉄クラスターは室温で磁石となる強磁性体である。 一方で、炭化鉄クラスターの新しい合成法を開発すべく、配位子にクエン酸 (citH4) を用いたアニオン性多核錯体の合成を行った。塩基としてトリエチルアミンを用いることで、キュバン型の四核錯体[M4(cit)4]8- (M = Mn(II), Fe(II), Co(II), Ni(II), Zn(II)) ができることが分かった。それに対し、弱い塩基性のアンモニアも用いたところ、二核錯体[M2(citH)2(H2O)4]2- (M = Fe(II), Co(II), Ni(II), Zn(II)) ができることが分かった。Mn(II)の場合は、水分子は配位せず、三次元的なネットワーク構造の配位高分子ができることが分かった。磁気測定により、Fe二核錯体とCo二核錯体は極低温で強磁性を示した。更に交流磁化率測定により、遅い磁気緩和を示すことが分かった。したがって、これらの二核錯体は強磁性であり、単分子磁石として働くことが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
アニオン性多核錯体と三脚型カチオンの複合化を行う。これまでの検討で、クエン酸多核錯体は溶媒に不溶であり、カチオン交換が難しいことが分かった。その原因として、カチオンに用いたグアニジウムイオンと強固な水素結合ネットワークを作るとこが上げられる。また、クエン酸錯体は溶媒中で解離平衡が生じ、核数制御が甘くなることも分かった。そこで、新たな配位子として、N置換酢酸部位を8つ有するベンゼンテトラミン八酢酸を合成する。この配位子はアミンによるキレートと、4つの酢酸イオン部位の配位により、エチレンジアミン4酢酸と類似した六座配位の構造による二核構造を作ると期待される。この配位子と金属イオンの錯形成挙動をタイトレーション実験により明らかにし、単結晶化により構造を明らかにする。三脚型カチオンにカチオン交換することで、平衡吸着法によりカーボン担体へ担持する。 更に、炭化鉄ナノ粒子のカーボン担体上における磁性を明らかにする。粒径が5, 10, 15, 20 nmの長鎖アルキル基で表面保護された酸化鉄ナノ粒子を前駆体に用い、カーボン担体に吸着担持する。水素下熱炭素還元法により炭化鉄ナノ粒子化する。磁気測定により、キュリー点、ブロッキング温度、磁気ヒステリシス、保磁力を測定し、カーボン担体に担持された酸化鉄ナノ粒子及び炭化鉄ナノ粒子の磁気特性のサイズ依存性をそれぞれ明らかにする。
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