炭化鉄微粒子の磁気特性の粒径依存性を明らかにするため、本年度は炭化鉄ナノ粒子の合成、カーボン担体への担持、水素下熱炭素還元による還元炭化、磁気測定を行った。前駆体として長鎖アルキルで表面保護された粒径5 nmの酸化鉄ナノ粒子をトルエンに分散し、グラファイト性メソポーラスカーボンの分散液と混合、濾過することで吸着担持した。得られたサンプルを水素気流化500度で1時間加熱することで、還元及び炭化した。磁場磁化曲線から、還元前後の両サンプルはいずれも室温では磁化が急峻に立ち上がるが、ヒステリシスは示さない、超磁性であることがわかった。興味深いことに、ヒステリシスを示し始める温度であるブロッキング温度は還元前では60 Kであったのに対し、還元後は160Kに上昇した。さらに、ヒステリシスを示す1.9 Kにおける保持力は還元前は440 Oeであるが、還元後は990 Oeと大きくなることがわかった。したがって還元により、より強い磁石になることが明らかになった。また、室温では保磁力を示さなかったことはナノ粒子のサイズでは担体と接する原子の割合が十分に多くないためと考えられ、炭化鉄クラスターの異常な保持力はグラファイトとの相互作用によるものであることが示唆される。 クラスター以外にも、微小な磁石の性質を明らかにするアプローチとして、磁性金属イオンを非磁性の金属有機構造体にドーピングした量子的な磁性に関して検討した。[ドーピングしたCo(II)サイトは高スピンS = 3/2で遅い磁気緩和を示す単イオン磁石として働き、Cu(II)サイトはS = 1/2で遅い磁気緩和を示すスピン量子ビットとして働くことがわかった。温度依存性を測定し、低温領域では直接過程もしくは測定環境に由来するフォノンボトルネックであり、高温領域ではラマン過程で緩和が加速することが明らかになった。
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