研究課題/領域番号 |
21H01759
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
前田 優 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (10345324)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | カーボンナノチューブ / 化学修飾 / 近赤外発光 / 近赤外吸収 |
研究実績の概要 |
グラフェンシートが巻き上がった構造のナノカーボンとして知られる単層カーボンナノチューブ(SWNTs)は、直径と六員環骨格の巻き上がり角度(カイラル指数で区別される)によって、異なる電子・光物性を示す。SWNTsを化学修飾すると、近赤外域に新たな発光が生じるため、バイオイメージングや光通信に活用し得る近赤外発光材料として期待されている。私どもは、chiral型に分類される(6,5) SWNTsの化学修飾によって、反応方法や反応に用いる試薬のデザインによって1000 nmから1268 nmの広い近赤外域において選択的に発光波長を発現させる方法を開発している。本研究では、これらの化学修飾による発光特性の制御方法が、構造の異なるSWNTsに対してどのように影響を与えるかを評価した。 アルキルブロミドおよびアルキルジブロミドを用いた還元的付加反応、およびアルキルリチウム試薬を用いた2段階の付加反応を行い、それぞれ対応するSWNTs付加体を合成し、これらを分離精製することで、SWNTs骨格の異なるSWNTs付加体の発光特性を評価した。還元的付加反応では、発光波長を選択的に発現するための因子を明らかにすることに成功した。アルキルリチウムを用いた反応では、用いる反応試薬によってなぜ発光波長の選択性が切り替わるのか、を解明することに成功した。さらに分離精製を行い、カイラル指数の異なるSWNTsでも、用いる試薬の違いによって発光波長の制御が可能であること、化学修飾による発光波長の変化量はSWNTsの直径に反比例することが明らかとなった。SWNTsの特性吸収と発光の波長は、SWNTs骨格の違いによって異なり、本研究成果によって、SWNTs発光材料の励起光と発光波長の選択肢を大きく拡張することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SWNTsの近赤外発光制御を行うために、環化付加反応に適した反応試薬を用いて化学修飾を行った。前処理となる分散方法など、複数の因子の条件を検討することで、これらの付加体が分離・精製した。分離前には観測することができなかった構造の異なるSWNTs付加体の近赤外発光も検出され、これらの特性の評価に成功した。これらの実験結果について、モデル分子の理論計算によって見積もった熱力学的安定性と遷移エネルギーの比較から、付加体の構造を推定した。さらに、アルキルリチウム試薬を用いた分子変換により、種々の半導体SWNTsの近赤外発光の選択性を切り替える方法を構築するとともに、発光波長が切り替わる仕組みを実験と理論計算の結果から検証した。一連の研究によって各種半導体SWNTsの直径選択的かつ高い波長選択性を有する発光制御を実証した。これらは、研究目標である、化学修飾によりSWNTsの近赤外発光の励起光と発光波長の選択性を大きく拡張できることを実証するものである。本研究の特徴である、実験化学と理論化学のインタープレイによって発光波長を制御するメカニズムを解明することについても、大きな知見を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
SWNTs付加体の合成と分離・精製の条件検討を進め、構造の異なるSWNTs付加体の純度の向上を進める。また、各種分光学測定から、分離されたSWNTs付加体の構造と特性の評価を進め、構造と性質の関係性について理解を深める。現在、選択性を発現する因子や、より長波長域に発光を発現できる化学修飾法の開発について、研究を進めている。これらによって、反応方法、付加体の構造と性質などの関係性について、より確かな知見を得ることを目指す。
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