研究課題/領域番号 |
21H01760
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
北本 仁孝 東京工業大学, 物質理工学院, 教授 (10272676)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 磁気バイオセンシング / 磁性ナノ粒子 / 磁気緩和 / 分子間相互作用 |
研究実績の概要 |
生体分子である核酸、タンパク質、糖鎖、脂質と相互作用する仕組みを付加した酸化鉄ナノ粒子を作製し、各種生体分子と相互作用する様子を、形態的、光学的、磁気的に評価した。また、交流磁化計測装置開発においてはより高感度な計測回路の設計指針を示すことができた。加えて、計測した交流磁化の周波数特性の結果を解析する手法としてデータ科学に基づいた方法を開始し、その有効性を示すことがでた。 DNA検出用磁性ナノ粒子プローブ開発においては、10塩基の単鎖DNAをプローブとして磁性ナノ粒子に固定化するプロセスを確立し、より分散性を向上させる溶液条件を明らかにした。創製した磁性ナノ粒子プローブを用いて22塩基のマイクロRNAを模したDNAと相互作用が起こることを交流磁化計測から明らかにした。その検出レベルは感染症などの検査のためのPCRにおいて検出する核酸のレベルと同等、あるいはより高感度になる可能性があることがわかった。 交流磁化計測装置開発においては、生体分子と磁性ナノ粒子プローブとの間の複雑かつ不均一な生化学反応を交流磁化状態の分布計測を実現するための計測回路について検討した。詳細な分布計測のためには交流磁化の周波数特性において数1000点レベルの大量のデータが必要となるが、周波数をスキャンしながら高速で計測するための回路においてコンデンサなどの電子部品で回路のインピーダンスを調節することが有効であることを明らかにした。 交流磁化の周波数特性において磁性ナノ粒子の磁化状態分布を解析するために、フィッティングや主成分分析を導入し、昨年度まで行っていたゲル中の磁性ナノ粒子の振舞を解析することにおいて、その有効性を示した。またより複雑な磁性ナノ粒子と高分子との相互作用について、その解析に適用できる可能性があることも示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は対象と想定している生体分子と相互作用する磁性ナノ粒子プローブの創製が目標であったが、核酸、タンパク質、糖鎖をターゲットとするプローブの作製プロセスをほぼ完成させている。またターゲットとなる生体分子の反応状況の調査を開始して、そのプローブ開発指針を明らかにしつつある。 交流磁化計測装置開発においては、計測回路について設計指針を明らかにする実験を完了している。 計測したデータを解析する手法として主成分分析など、新しい手法を開始しており、基本的な系においてその有効性を示したと同時に、より複雑な系にもその適用が有効であることを示す結果を得始めている。
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今後の研究の推進方策 |
生体分子を相互作用する磁性ナノ粒子プローブの創製に成功したが、生体分子の起こす相互作用や反応が起こる溶液条件の調査において、溶液中の塩濃度が反応や相互作用に及ぼす影響が大きいことが明らかになってきている。その現象を踏まえると、磁性ナノ粒子プローブが体液と同等の塩濃度の溶液においても安定に分散することができるようにナノ粒子表面の分子設計や修飾方法を検討することが急務の課題である。また、このプローブ粒子の開発ができれば、塩濃度が高い溶液中で生体分子との相互作用が効率よく起こる系ではより高感度な計測ができる可能性があるため、当初予想していたよりもさらに高感度な生体分子検出ができると期待できる。 同時により詳細な計測とそのデータ解析の手法についても開発を推進する必要がある。磁性ナノ粒子プローブの生体分子との反応溶液中での流体力学的振舞の詳細な分布解析が不可欠であり、計測装置開発において低周波数領域での高感度検出、大量のデータから分布状態を解析するデータ分析の手法についてその精度を高めるための開発を推進する。
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