研究課題/領域番号 |
21H01763
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
小林 慶裕 大阪大学, 工学研究科, 教授 (30393739)
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研究分担者 |
仁科 勇太 岡山大学, 異分野融合先端研究コア, 研究教授 (50585940)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | グラフェン / 酸化グラフェン / 化学気相成長 / 超高温プロセス / 層間相互作用 / 歪センサ / 光吸収 |
研究実績の概要 |
3次元に積層した単層グラフェンにおいて、本来の物性を著しく変質させる層間相互作用を積層グラフェンの層間へのスペーサ挿入による層間隔拡大や、ランダム積層構造の形成によって抑制することが目的である。その目的に向けて、以下の研究項目について進捗させた。 ・構造制御酸化グラフェン(GO)のスケーラブル合成:3次元積層グラフェンの出発物質となるGOの合成プロセスで形成される欠陥を低減するために電気化学剥離法の検討を進めた。生成条件を最適化し、低欠陥GOのスケーラブル合成への道筋を明らかにした。 ・滴下法によるスペーサ導入グラフェン形成:GO層間へのスペーサ材料挿入の有効性を検証するため、基板上にGOとスペーサ材料(カーボンナノチューブ)を交互に滴下して堆積した試料を作製し、その構造をラマン分光法で解析した。スペーサ材料導入は層数増加に伴う2次元性(2Dバンド強度で評価)の減少を著しく抑制する効果があることを見出した。 ・テンプレート上CVD成長によるランダム積層グラフェン形成:処理時間・圧力・温度について詳細な検討を進め、大面積成長への指針を得た。特に過剰に高温で処理すると、島サイズは拡大するが、多核成長した微細な島が集合した結果であり、高性能化には不適切であることが判明した。さらにドメインサイズ拡大と平坦性向上にむけて、テンプレート形成からその上でのランダム積層成長までを大気にさらさず一貫しておこなうプロセスの検討に着手した。 ・スペーサ導入グラフェンの構造解析:セルロースナノファイバやナノダイヤモンドを添加したGOからスポンジ状グラフェンを形成し、その構造をX線回折によって評価した。解析の結果、想定したような各層間にスペーサを挿入することはできていないものの、GOの凝集を抑制することによって積層方向の周期性が減少し、熱処理過程でのグラファイト化を抑制する効果があることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
交付申請書では、(1)構造制御GOのスケーラブル合成、(2)層間カップリング抑制自立グラフェン作製、(3)テンプレート上CVD成長による乱層積層グラフェン形成、(4)層間カップリング抑制グラフェンの物性解析の4項目を今年度に実施するとしていた。 (1)について、これまで行ってきたGO合成プロセスにおいて、積層化に適した層数・酸化度・サイズに構造制御するための最適化を進めるとともに、環境に配慮した新たな低欠陥GO合成法のアプローチとして電気化学剥離法の検討に着手し、予定通りに進捗させた。 (2)について、本課題で目的とするGOからの自立グラフェン積層体形成に先立ち、ろ過法による作製プロセスで課題となっていたグラフェン層間に確実にスペーサ材料を挿入する新たな手法として交互滴下法に取り組んだ。その結果、特に層数が増加した場合に問題となるグラファイト化が抑制され、2次元性を維持できることを見出した。これは2次元性を保った多層グラフェンを形成する上で重要な進捗である。 (3)について、温度だけではなく、圧力や処理時間についても最適化を進め、計画通りに大面積成長への指針を得た。装置改造の都合でエッチング成分の導入は2022年度に持ち越すことになったが、一方でテンプレート表面の清浄性に着目して、新たに真空一貫プロセスへと研究を展開させた。 (4)について、ラマン分光やSEMによる通常の構造評価に加えて、X線回折による構造解析で大きく進捗させた。現時点での試料作製プロセスではもくろみ通り層毎に導入できていないものの、分散液中での凝集を抑制して乱層率を向上させる効果があるという新たな現象を見出した。 以上のように、必ずしも計画通りではなく別のアプローチではあるが、当初の目標を概ね達成するとともに、計画していなかった方向へも展開しており、当初の計画以上に進展と評価する。
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今後の研究の推進方策 |
1年目におこなった研究を受け継いで、以下の項目についての研究を推進していく。 (1)構造制御GOのスケーラブル合成:引き続き、還元・構造修復と乱層グラフェン形成に適した酸化グラフェン(GO)を作製する。特に、スケーラビリティを考慮したサイズと酸化度の最適化に重点を置く。様々な酸化法によるGO構造の相違や事前に化学還元を施すことによる熱処理後の欠陥抑制効果を検証する。 (2)層間カップリング抑制グラフェン作製:GOをbuilding blockとして、層間に異種物質からなるスペーサ材料を挿入し、層間カップリング抑制がグラフェン物性に及ぼす効果を検証する。層間にスペーサ材料を確実に挿入するため、昨年度に着手したGOとスペーサ材料の交互滴下法による薄膜形成の最適化に重点を置く。さらに、実用上重要なバルクスケール物性計測に向けた自立3次元グラフェン作製へと進展させる。 (3)テンプレート上CVD成長による乱層積層グラフェン形成:物性測定に必要な欠陥密度の低減、ドメインサイズ拡大と平坦性の向上を図るため、グラフェン成長の真空一貫プロセスの検討を引き続き進めるとともに、エッチング作用のある水や二酸化炭素の添加効果の検証に着手する。 (4)層間カップリング抑制グラフェンの物性解析:引き続き、スペーサ挿入がグラフェン積層構造に及ぼす効果をラマン分光法、透過・走査電子顕微鏡での実空間観察やX線回折から検証するとともに、広エネルギー範囲での吸収分光から層間カップリング抑制効果を検証する。
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備考 |
研究室ウェブページ http://www.ap.eng.osaka-u.ac.jp/nanomaterial/index.html
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