研究課題/領域番号 |
21H01764
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
佐藤 和久 大阪大学, 超高圧電子顕微鏡センター, 准教授 (70314424)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 励起プロセス / 内殻電子励起 / 界面固相反応 / 金属シリサイド / 微細パターニング |
研究実績の概要 |
前年度の研究では、アモルファス(a-)カーボン/Fe/a-SiO2積層膜を作製し、75 keV電子照射によりFe2Siの生成を確認したが、今年度はa-SiO2中にFeナノ粒子を包埋した薄膜を作製し、同様に電子照射実験を行った。電子照射及び微細組織観察には透過電子顕微鏡 (日立H-7000、日本電子JEM-ARM200F) を用いた。電子照射はエネルギー75 keVで行い、照射温度は室温である。状態分析と組成分析にはそれぞれ、200 kV-TEMに搭載した電子エネルギー損失分光(EELS) 装置とエネルギー分散型X線分光 (EDS) 装置を用いた。 As-depo.試料の制限視野電子回折図形には、α-FeとFeOの回折リングならびにa-SiO2からのハローリングが観察された。室温で75 keV電子照射 (ドース量: 3.2×10^27 e/m2) を行うと、新たにFeSiの回折リングが生じ、Feナノ粒子が顕著に粒成長した。STEM-EELS測定を行ったところ、電子照射領域ではFe-LエッジのL3/ L2比が低下した。これは、as-depo.試料に含まれるFeOが還元されたためと考えられる。STEM-EDS元素マッピングを行ったところ、電子照射領域のFe/a-SiO2界面部分においてSi濃度が増加する傾向が見られた。シリサイド形成に伴う顕著な粒成長と界面でのSi濃度変化は、以前にPt/a-SiOx系で得られた実験結果[Sato et al. Acta Mater. 154 (2018) 284]と同様の傾向である。一方、本研究ではFe2Siの生成は認められなかったことから、界面固相反応において形成される相の選択性に関して、引き続き検討することとした。また、as-depo.試料にFeOが含まれることから、全ての成膜を同一の高真空チャンバー内で行うよう成膜方法を改善した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は前年度に引き続き、成膜法によるa-SiO2/Fe/a-SiO2試料薄膜の作製と電子照射によるFeシリサイドの形成、透過電子顕微鏡観察による固相反応物の微細構造解析と元素マッピング、電子エネルギー分光法による状態分析を行い、さらに成膜方法を改善するなど、おおむね計画通りの成果を得たため。
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今後の研究の推進方策 |
【固相反応メカニズム解明とシリサイド相制御】前年度に引き続き、Fe/アモルファスSiO2界面に形成されたFeシリサイド相近傍におけるSi濃 度分布を電子エネルギ ー損失分光法(EELS)ならびにエネルギー分散X線分光法(EDS)を用いて分析する。Si濃度分布の観点から、電子励起によ るSi-O結合切断とSiの供給によるFeシリサイド形成に至る過程を明らかにして、固相反応の制御、すなわち、形成されるシリサイド相の制御を 試みる。 【ナノサイズ化による格子歪導入】前年度までに得られた知見をもとに、アモルファスSiO2膜厚とFeナノ粒子サイズを制御し、Feシリサイドを ナノサイズ化して格子歪を導入する。高分解能電子顕微鏡像に基づく歪解析を行い、形成されるシリサイド相の極微構造やシリサイド相の種類 に及ぼす格子歪の影響を明らかにする。 【位置選択的なFeシリサイド形成】電子照射領域の制御により、位置選択的なFeシリサイド形成と照射条件制御により形成される相の制御を試 みる。 以上の研究を通して、電子励起による界面固相反応の開拓とその反応メカニズム解明を図る。
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