研究課題/領域番号 |
21H01768
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
日比野 浩樹 関西学院大学, 工学部, 教授 (60393740)
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研究分担者 |
影島 博之 島根大学, 学術研究院理工学系, 教授 (70374072)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 二次元物質 / ヘテロ構造 / 結晶成長 / グラフェン / 六方晶窒化ホウ素 / 化学気相成長 |
研究実績の概要 |
我々はこれまで、Cu基板上で、グラフェンを化学気相成長させた後に六方晶窒化ホウ素(hBN)を成長させると、両者が同一面内で接合された横型ヘテロ構造が得られ、成長順序を入れ替えると、両者が積層された縦型ヘテロ構造が得られることを示してきた。しかし、その詳しい成長機構は不明であった。そこで、グラフェンまたはhBNで部分的に覆われたCu(111)表面での各種成長前駆体の吸着エネルギーを第一原理計算から求め、成長機構を考察した。その結果、異なるヘテロ構造の形成には、グラフェンのエッジがCu基板で終端される一方、hBNエッジは水素原子で終端されている必要があることが判明した。ただし、エッジ構造が異なる理由は未解明であり、今後、より詳細な成長機構の検討が必要である。 また、均一な縦型ヘテロ構造の作製に、グラフェン成長中のhBNのエッチングが課題となっている。そこで、グラフェン原料(CH4)のキャリアガスがエッチングに及ぼす影響を調べ、キャリアガスをArとH2の混合ガスからN2に変更することで、hBNのエッチングを回避できることを示した。しかし、同時にグラフェンの結晶性が劣化することも分かり、高品質化に向けた成長条件の最適化が必要である。 Geの原子シートであるゲルマネンはAg(111)基板上に形成できることが知られているが、Ge被覆率に応じて現れる多様な構造のどれがゲルマネンであるか議論があった。今回、Ag薄膜を堆積したGe(111)基板を加熱し、Ag表面にGeを析出させたときに現れる三種類の構造(ストライプ相、低秩序相、長距離秩序相)がゲルマネンであるかどうかを、超高真空中で走査トンネル顕微鏡とラマン分光法により調べた。その結果、よりGe被覆率が高い低秩序相と長距離秩序相は歪み量の異なるゲルマネンであるが、最もGe被覆率が少ないストライプ相はAgとGeの合金相であることを解明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
グラフェンとhBNのヘテロ構造の成長機構を理論的に考察し、多くの知見を得た。グラフェンまたはhBNで部分的に覆われたCu(111)表面で、各種成長前駆体の吸着エネルギーを第一原理計算から評価し、その結果から、グラフェンとhBNのエッジ終端構造の違いが、縦型と横型の異なるヘテロ構造をもたらす原因であることを明確にした。今後、理論から成長機構のより詳細な理解を進めるとともに、実験からエッジ終端構造の制御に取り組む。 また、均一な縦型ヘテロ構造の作製に向けて課題となっていたhBNのエッチングの回避に、グラフェン成長時のキャリアガスが重要な役割を果たすことが示され、高品質で大面積の縦型ヘテロ構造の作製への指針が得られた。 代表的な半導体の2D物質である二硫化モリブデン(MoS2)をグラフェンやhBNと複合化する研究にも着手している。グラフェンとhBNの化学気相成長用の基板として最も一般的なCuは、容易に硫化されるため、MoS2の成長基板に利用できない。そこで、サファイア基板上でのグラフェンとhBNの直接成長に取り組み、成長条件を確立しつつある。今後は、サファイア基板上にグラフェン、hBN、MoS2からなる2Dヘテロ構造の成長を試みる。 Geの原子シートであるゲルマネンは二次元トポロジカル絶縁体の候補としてその物性に興味が持たれている。今回、Ge(111)基板上のAg薄膜表面に基板からGeを析出させる手法で、高い結晶性をもつゲルマネンを作製できることが明らかになった。今後、2Dヘテロ構造の新たな構成要素としての活用を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
グラフェンとh-BNの縦型ヘテロ構造は、グラフェンの高い電気伝導特性を引き出す上で有効であるため、その高品質成長は主要なターゲットである。キャリアガス種を含め、hBNとグラフェンの化学気相成長および成長インターバルの条件を最適化することで、高品質で大面積の縦型ヘテロ構造の作製に取り組む。また、得られたヘテロ構造を用いて電界効果トランジスタを作製し、その性能評価を通して、hBNで保護することで荷電不純物によるキャリア散乱が低減され、グラフェンの高い伝導特性が維持されることを確認する。 グラフェンとhBNのヘテロ構造の成長機構の解明へ、理論的な考察を推し進める。現状、縦型と横型の異なるヘテロ構造が形成される原因が、グラフェンとhBNのエッジ終端構造の違いにあることは明確になったが、エッジ構造が異なる理由は未解明である。そこで、各種エッジ構造の形成エネルギーの比較に加えて、これまでに考慮されていなかったものを含め、どのような成長前駆体が水素分圧に依存して表面や表面近傍に安定に存在するかを第一原理計算から明らかにし、エッジ終端構造の違いを理解する。 これまでに、サファイア基板上でのグラフェンおよびhBNの直接成長に成功しているが、結晶性に課題がある。今後は、結晶性の向上に加えて、グラフェンとhBNのヘテロ構造の作製も試みる。さらに、サファイア基板に成長させたグラフェンやhBN上に、MoS2を成長させ、縦型ヘテロ構造の作製に取り組む。
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