絶縁体上に二次元物質のヘテロ構造を直接合成できれば、そのままデバイスに加工できるため応用上メリットがある。そこで、サファイア上にグラフェンを成長させ、さらにその上に二硫化モリブデン等の他の二次元物質を成長させることに取り組んでいる。我々はこれまで、メタンを原料に、サファイア上に直接グラフェンを化学気相成長(CVD)できることを報告してきたが、高品質なグラフェン成長には1500℃程度の高温が必要であった。そこで、本年度は、銅上においてグラフェンCVD成長の低温化が可能なエチレンをサファイア上の直接成長の原料に用い、メタンとの比較から、同じ成長温度ではメタンよりも高い結晶性のグラフェンが得られること、同程度の結晶性のグラフェンがメタンに比べ約200℃低い温度で得られることを明らかにした。 絶縁性の層状物質である六方晶窒化ホウ素(hBN)は、2次元物質ベースのエレクトロニクスにおいて基板や絶縁膜として重要な役割を果たす。このため、多層hBNを大面積に層数を制御して製造する技術が求められている。しかし、これまでhBNの大面積成長に広く用いられてきた触媒金属基板上でのCVD成長では、ほとんどの金属で窒素が固溶せず表面に留まるため、ホウ素との反応により表面が単層hBNで覆われると成長が自己停止する。そこで、鉄を含む基板中に高温で窒素とホウ素を固溶させ、基板冷却時に多層hBNを表面析出させる手法が試されているものの、層数均一性に課題がある。我々はこの課題克服に向け、多層hBNの形成機構をより深く理解するため、鉄ニッケル合金基板へhBN原料を供給後の基板冷却速度がhBN層数に及ぼす影響を調べた。その結果、冷却速度の上昇により層数は減少したが、どんなに速く冷却しても層数が一定値以下にならなかった。原料供給時に既に表面にhBNが形成され、その後、基板からの析出によって層数が増加したと考えられる。
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