近年のメカノバイオロジー研究の進展により、多様なタンパク質が機械的刺激を感知し、その機能を変化させる現象が次第に明らかにされている。特に、メカノセンサータンパク質はその構造と力学的性質が外部の力に応じてどのように変化するかについて、詳細な解析が求められているが、これまでの技術では単分子レベルでの直接的な観察が困難であった。本研究はこの技術的障壁を克服するため、高速原子間力顕微鏡(AFM)を基盤として新たな観測手法を開発し、タンパク質の構造と力学特性の動的変化を実時間で解析することを目指した。
昨年度までに、一軸伸張機能を備えた探針走査型高速AFMの開発し、これによりタンパク質単分子に対して力学負荷を印加しながら、その構造変化を高解像度で観察することが可能となった。具体的には、微小管の屈曲挙動やBIN1タンパク質の曲率を持つ脂質膜への結合過程について解析した。 本年度は、さらに技術の向上を目指し、基板に引張応力を印加することによる弾性基板のひずみを定量化するための装置改良を行った。このプロセスにおいて、伸長装置にホイートストンブリッジを利用したひずみゲージを組み込み、標準ゴムを使用してひずみゲージの校正を行うことで、基板への応力印加とひずみの関係を計測できるようになった。また、引張限界が150%であった伸長装置の性能を改良し、300%までの引張に耐えられる設計へと改良した。 この技術の応用範囲を拡大し、生体分子だけでなく高分子ゴムやその他の材料への適用も試みた。特に、高分子ゴムから成る微粒子を含んだフィルムにおいて、引張時における微粒子の変形と配列の変化を高速AFMで詳細に観察することに成功した。
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