研究課題/領域番号 |
21H01780
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
南 豪 東京大学, 生産技術研究所, 准教授 (70731834)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 有機トラジスタ / 化学センサ / センサアレイ / 分子認識 / 実サンプル分析 / パターン認識 |
研究実績の概要 |
リン酸やカルボン酸などを含むオキソアニオン類は生体内にユビキタスに存在しており,様々な疾病のバイオマーカーとなり得るために,無機リン酸を含む多種多様なオキソアニオンの同時分析は重要である。とりわけ成人の血清中に存在する無機リン酸の濃度異常が慢性腎臓病,副甲状腺機能低下症を引き起こす原因となることが報告されている。本研究では,血清中のバイオマーカー類の同時定性・定量分析を目指して,π共役高分子半導体を組み込んだ有機トラジスタ型センサを開発した。半導体分子が自己組織的に並び機能するトランジスタの特性は,ゲート電極の電位変化によって制御される。従って,ゲート電極で標的種を捕捉する仕組みを設計・実装することで,センシングによるゲート電極/水溶液の間の電位変化をトランジスタの閾値電圧や電流値の変化として定量的に読み出すことが出来るようになる。ここでは,標的オキソアニオン類を捕捉するために,ジピコリルアミン-銅(II)イオン錯体を自己組織化単分子膜 (SAM)として採用した化学センサの設計・開発を行った。SAMの界面は,多数の認識場が秩序高く一様に並んだ面となり,化学センサでは,効率良く標的種を捕捉するための検出部位となり得る。さらに,人工分子認識材料が織りなす交差応答性は,多成分分析の実現において重要な指紋パターンを作り出すための鍵となる。13種のオキソアニオン種に対する当該センサの応答パターンを線形判別分析で迅速に解析し,定性分析 (種の判別) を行ったところ,全オキソアニオン種は100%の精度で分類され,標的種の化学構造に由来した分類を達成した。更なる挑戦として,機械学習を用いてヒト血清に存在するリン酸イオンの定量分析 (未知濃度の予測) を行ったところ,実サンプル中で2点の未知濃度を予測することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は,π共役高分子を半導体として活用した有機トラジスタ型センサを開発し,多変量解析技術を駆使した多成分分析と実サンプル分析に挑戦した。本取り組みを通して,分子集合体によって形成される有機デバイスが,化学センサの基盤として有用であることを明らかにし,適切な分子認識材料を固定化することで,多変量解析に向けた指紋パターンを作り出すためのプラットフォームとなり得ることを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
現在,血清に含まれる多種多様なバイオマーカーを捕捉するためのπ共役高分子を設計・合成しており,合成終了後に分子認識能の調査へと移行する予定である。機能発現が確認された後に,当該高分子をセンサデバイスへと組み込み,デバイスとしての分子認識能を評価する。バイオマーカーに対する良好な応答が得られた場合には,多種多様な標的種に対するパターン認識に挑戦する。
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備考 |
Rising Stars in Polymer Science 2021 高分子学会, https://www.nature.com/articles/s41428-021-00559-y
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