研究実績の概要 |
細胞の力学特性が、細胞疾患の進行度に依存して変化し、この細胞の力学特性の変化がマクロな症状として現れる。原子間力顕微鏡法(atomic force microscopy, AFM)は、接着性細胞の力学特性を低侵襲で計測することができる計測技術である。また、その時間分解能はサブミリ秒からマイクロ秒レベルであり、空間分解能もサブマイクロメーターからナノスケールであり、AFMの精度は、他の力学計測技術と比べても極めて高い。本研究では、接着状態の細胞のレオロジー物性の細胞内空間分布を短時間で計測し、力学的に細胞診断を可能とするAFM技術を開発することを目的としている。 本年度は、AFM技術を、がん細胞に加えて、他の細胞疾患へ適用することを検討した。そして、多細胞系への適用可能性について詳細な検討を行った。その結果、本研究で開発したAFM技術が循環器系疾患細胞のレオロジー計測に適用可能であることを分かった。さらに、AFM技術を用いて、3次元の構造を有する上皮単層細胞の力学計測への適用を試みた。その結果、上皮細胞の弾性率と一緒に、上皮細胞間に働く張力を定量計測できることを初めて明らかにした。これらの研究は、AFM細胞計測技術が、がん細胞だけでなく、様々な細胞疾患の診断に利用できる可能性を示唆している。さらに、AFM技術は、単離した1細胞だけでなく、組織様の多細胞サンプルや組織の力学計測に適用できる可能性を示唆している。
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