研究実績の概要 |
2022年度は主に第一原理計算を併用した磁性体のデータベース生成とその解析に関する理論の研究に取り組んでいる。 研究代表者が2019年に発表した、結晶に適合する磁気構造生成の研究を発展させることで、有限の伝搬ベクトルで特徴付けられる空間変調のある磁気構造や、トリプル-q構造と呼ばれる複雑な磁気構造の解析・生成に関する理論を発表した[Yanagi et al. Phys. Rev. B 107, 014407(2023)]。この理論をもとにα-MnやCoM3S6(M=Nb, Ta)で観測される反強磁性異常ホール効果の発現と適合する磁気秩序という観点から解析を実施し、実験事実を説明する磁気構造を提案している。CoM3S6についてはさらに実験グループとの共同研究によって磁気構造の同定と異常ホール効果の発現との関わりを調べ、それらの結果をまとめた論文を投稿している。また、磁性体の機械学習による研究への応用を視野に、磁気構造を座標系の取り方に依らない形で多次元ベクトルとして表現する理論の研究に取り組み、単純な磁気配列に対する理論のパラメータ依存性や高対称な磁気構造を対象とした判別性能のベンチマークテストを実施している。これらの検証を通して、提案した磁気構造の特徴量が磁性体の物性現象と密接に関係する磁気構造の対称性に対し、高い識別性能を持つことを示している。これらの結果をまとめた論文を執筆し、2022年度終了時において投稿準備中である。この他、実験グループとの共同研究としてNbMnPの反強磁性秩序相における異常ホール効果の解析を実施し、論文を投稿している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
磁性体のデータベース構築と解析に関する理論の構築に取り組み、研究代表者が提案した結晶周期を破らない高対称磁気構造の生成理論[Suzuki et al., Phys. Rev. B 99, 174407(2019)]を拡張することで、有限の伝搬ベクトルで特徴付けられる空間変調をもったより複雑な磁気構造の解析・生成に関する理論を提案し、その理論をα-MnとCoM3S6(M=Nb, Ta)の磁気構造と輸送現象の解析に適用した結果をまとめ、論文を出版している[Yanagi et al. Phys. Rev. B 107, 014407(2023)]。CoM3S6(M=Nb, Ta)については実験グループとの共同研究によってその磁気構造と異常ホール効果の発現に関するより詳細な解析にも取り組み、論文を投稿している。また、磁気構造を機械学習の特徴量として表現するための理論に関する研究を実施し、提案した特徴量の磁気構造に対する識別性能を調べ、それらの結果をまとめた論文を執筆している。
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