研究課題/領域番号 |
21H01794
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
横内 智行 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (20823389)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | スキルミオン / ニューロモルフィックデバイス / 物理リザバー |
研究実績の概要 |
本研究は、トポロジカルスピン構造であるスキルミオンが示すダイナミクスを用いた高性能・低消費電力なニューロモルフィックデバイスの実現を目指している。 2021年度の研究で、交流磁場を印可した際のスキルミオンダイナミクスが、ニューロモルフィックデバイスの一種である物理リザバーデバイスに適したダイナミクスを示すことを明らかにし、実際にスキルミオン物理リザバーデバイスを用いて手書き文字認識に成功した。2022年度は、スキルミオン物理リザバーの特性をより詳細に明らかにすることに成功した。具体的には、認識率とデバイス中のスキルミオン数の依存性の測定をし、スキルミオン数が増えると認識率が上昇することを明らかにした。そしてこれらの成果を論文として出版[Science Advances 8, abq5652 (2022).]するとともに、プレスリリースにより広く情報発信を行なった。さらに、日本物理学会やアメリカ物理学会でも本成果を発表した。 さらに2021年度に引き続きおこなった、スキルミオン物質以外のトポロジカル物質や磁性体のニューロモルフィックデバイス・リザバーデバイスへの応用を検討するための、基礎物性や非線形現象の開拓・その起源の解明の研究にも大きな進展が見られた。一つ目は、トポロジカル物質における非線形伝導現象の観測とその起源の解明で、その成果を論文として発表した[Phys. Rev. Lett. 130, 136301 (2023) (Editors' suggestion)]。さらに二つ目として、反強磁性体において、電流誘起のスピンダイナミクスによるとみられる非線形伝導現象の観測にも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画である、スキルミオンを使ったニューロモルフィックデバイス作成は非常に順調に進んでいると言える。2021年度達成した、スキルミオンを使った手書き文字認識の成功に加え、2022年度は、認識率の向上にスキルミオンの形成が重要である可能性を示唆する実験結果を得ることができた。さらに、本成果の論文発表やプレスリリース、国内外での学会発表と情報発信も十分に出来ているといえる。 さらに、当初の研究計画にはなかった、スキルミオン物質以外のトポロジカル物質・磁性体のニューロモルフィックデバイスへの応用の可能性を探る研究も進展を見せている。具体的には、二つの物質系でニューロモルフィックデバイスへの応用ができる可能性のある非線形伝導現象を観測するとともに、その起源を明らかにすることに成功した。これらの理由により、当初の計画以上に進展しているとえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、2021・2022年度に得られた結果をもとに、さらにニューロモルフィックデバイスの研究を進展させていく。まず、これまでにスキルミオン物理リザバーデバイスでの実験で得られた実験データを理論家とも議論することで、スキルミオン物理リザバー計算に対する理解を深化させることや物理モデルの構築を計画している。 また2022年度まではスキルミオンダイナミクスの駆動源として磁場を用いたが、応用・省エネルギー性の観点からは、電流により類似のダイナミクスを誘起できることが望ましい。そこで、電流に対するスキルミオンダイナミクスを詳細に調べ、電流誘起スキルミオンダイナミクスに基づいたニューロモルフィックデバイスの可能性を引き続き検討する。 さらに、スキルミオン物質以外のトポロジカル物質や磁性体で発見した、非線形伝導現象についても、その特性をさらに調べるとともに、その微視的起源も明らかにする。そしてその結果に基づいて、これらの現象を用いたニューロモルフィックデバイスが作成可能かを検討する。さらに、作成できる可能が高い場合には、既存のニューロモルフィックデバイスに対するメリット・デメリットも明らかにする。
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