研究課題/領域番号 |
21H01795
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
長谷川 哲也 お茶の水女子大学, 理学部, 学部教育研究協力員 (10189532)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | イオン伝導 / ReRAM / ペロブスカイト |
研究実績の概要 |
本研究では、遷移金属酸フッ化物を用いた抵抗変化メモリ素子(ReRAM)の提案を目的としている。イオン伝導には構成元素や空孔の配列が影響を及ぼすことが知られている。そこで、異方性を制御した層状ベロブスカイト型GdBaCo2O5.5(GBCO)薄膜の合成を行った。GBCOはc軸方向のGd/Ba配列に加え、b軸方向に八面体CoO6/ピラミッドCoO5の配列を有し、いずれもイオン伝導に影響を及ぼす可能性がある。様々な基板上にGBCO膜をパルスレーザー蒸着(PLD)法により作製し、配列の制御を試みた。 その結果、基板の格子定数や面方位に応じてGd/BaおよびCoO6/CoO5配列を制御できることを見出した。特にSrTiO3(001)上の薄膜では、面直方向にGd/Baのみが配列し、CoO6/CoO5配列は観測されなかった。結晶系も本来の斜方晶から正方晶へと変化した。同様に、LaSrGaO4(001)上ではCoO6/CoO5のみが面直方向に配列し、Gd/Ba配列は消失した。また、NdGaO3(110)およびLaSrAlO4(001)上の薄膜では、CoO6/CoO5配列の方向を制御できることが判明した。これらの結果は、イオン伝導の異方性制御に向けた第一歩となる。 続いて、アモルファスZnOxSy薄膜のPLD成膜を行った。ZnOおよびZnSターゲットを交互にアブレートすることにより、0 < y/(x+y) < 1の幅広い範囲で組成を制御することができた。そのうち、~0.30 < y/(x+y) < 0.35の薄膜は金属的な電導性を示した。キャリア濃度は10^16 cm-3台から10^19 cm-3であり、移動度は15 cm2V-1s-1に達した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
GdBaCo2O5.5(GBCO)薄膜をパルスレーザー蒸着法により種々の単結晶基板上に作製した。GBCOは層状ベロブスカイト構造を有し、c軸方向にGd/Baが、b軸方向に八面体CoO6/ピラミッドCoO5が配列している。GBCOとの格子整合および結晶の対称性を考慮し、基板としてSrTiO3(001)、LaSrGaO4(001)、NdGaO3(110)、LaSrAlO4(001)を選択した。SrTiO3(001)上ではGd/Baのみが、LaSrGaO4(001)上ではCoO6/CoO5のみが配列した薄膜の作製に成功した。配列はいずれも面直方向で、もう一方の配列の消失と符号して、結晶は正方晶系へと転移した。一方、NdGaO3(110)上の薄膜は斜方晶を維持し、基板の[001]方向にGd/Baの、面直方向にCoO6/CoO5の配列を示した。LaSrAlO4(001)上の薄膜では結晶方位の異なる2つのドメインへの分域構造が観測された。それぞれのドメインで、CoO6/CoO5配列は面直および面内を向いており、走査型透過電子顕微鏡観察の結果、ドメインの境界は[CoOx]-[CoOy] からなることが判明した。。 アモルファスZnOxSy薄膜に関しては、組成x、yおよびキャリア濃度を広範囲で制御することに成功した。ここで重要な合成パラメータは、仕込み組成およびレーザーフルーエンスであり、y/(x+y)>0.30 かつ低レーザーフルーエンスで合成した薄膜が非晶質(アモルファス)となった。このことは、光照射が結晶化を促すことを示している。一方、高レーザーフルーエンスほどキャリア濃度は高い傾向を示した。y/(x+y)~0.30のアモルファス薄膜は特に有望であり、10~15 cm2V-1s-1の高い移動度を示した。
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今後の研究の推進方策 |
GdBaCo2O5.5(GBCO)薄膜を対象に、プロトンやフッ化物イオン伝導の異方性を評価する。Gd/Ba配列がイオン伝導にどのような影響を及ぼすか興味がもたれる。NdGaO3(110) 上のGBCO薄膜では、基板の[001]方向にGd/Baが配列しており、面内での異方性を評価するのに適している。一方、LaSrGaO4(001)上のGBCO薄膜ではGd/Ba配列が消失しており、ランダムなGd/Ba配置によりイオン伝導がどの程度抑制されるか調べる。一方、アニオン伝導はアニオン空孔を介すると考えられるため、CoO6/CoO5配列はより大きな影響を及ぼすと予想される。SrTiO3(001)上の薄膜はCoO6/CoO5配列が消失していることから、アニオン空孔の影響を調べる上で非常に有用である。 アニオンの挿入位置と空孔との関係を調べるには、STEM-EELS測定と直線偏光X線吸収分光が強力な手法となる。後者に関しては、理論計算との比較が必要であるものの、置換量の定量的な議論が可能である。 アモルファスZnOSにおける伝導機構を明らかにするため、これまでに合成したZnOS薄膜を対象に、ランダムバリアモデルを用いたシミュレーションを行う。同モデルはキャリアに対するバリア高さの空間ゆらぎに基づくものであり、輸送特性の温度依存性よりバリアの平均高さと標準偏差を評価する。
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