スピン励起による光起電力効果の実現を目指した研究を進めている。マルチフェロイクスのエレクトロマグノン共鳴をテラヘルツ光で励起することで、これまで光電流が生成されることを検証してきた。特に、代表的なマルチフェロイクスとして知られるペロブスカイト型マンガン酸化物のサイクロイド磁性相において、エレクトロマグノンと反強磁性共鳴がともに光起電力効果を有することを明らかにした。光起電力の存在を慎重に検証するために、有限の電荷が直流電流により生成されることを実験的に検証し、従来から知られている光熱効果から生じる現象とは異なることを明らかにした。また、テラヘルツ光の偏光依存性からモード選択的励起を行い、エレクトロマグノンと反強磁性共鳴の光電流生成効率の検証を行った。その結果エレクトロマグノンが反強磁性共鳴に比べて2倍程度の大きな変換効率を有することを明らかにした。これは、光電流生成機構に大きなモード依存性が存在することを示している。光起電力効果の温度依存性から最低温とらせん磁性相への転移温度点近傍で著しい増強効果が観測された。転移点付近の増強効果は臨界現象の一種であり、光起電力効果をあらわす2次の非線形電導率が発散的振る舞いを示すことに由来していると考えられる。一方で、最低温の増強効果については熱励起により生じたマグノンやフォノンが光起電力効果に影響している可能性を示唆している。以上のように、本研究では磁気励起による光起電力効果の存在を初めて実験的に示すことに成功し、その様々な特性を明らかにした。
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