研究課題/領域番号 |
21H01797
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
生田 博志 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (30231129)
|
研究分担者 |
飯田 和昌 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (90749384)
浦田 隆広 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (30780530)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 硼化砒素 / BAs / 高熱伝導率薄膜 |
研究実績の概要 |
最近、BAsの熱伝導率がダイヤモンドに次いで高いと理論的に予言され、その後、実験的にも検証された。高熱伝導率材料は電子素子の高密度化に伴って深刻化している高発熱密度問題の解消に必要とされているため大きな注目を集めているが、この系の結晶成長は容易ではなく、比較的小さな単結晶しか得られていない。また、電子素子応用には薄膜化が必須である。そこで、本研究ではこの系の薄膜成長に取り組んだ。まず、原料供給速度や基板温度を様々に変えてMgO基板に薄膜成長を試みた。その結果、基板温度200℃以上ではAsが再蒸発していずれもBAs相が形成されなかったが、それ以下で相形成される領域を見出した。しかし、成長速度は遅く、現実的な速度で成膜すると非晶質相との混合膜が得られた。同様にGaAs基板でも高温ではBAs相形成にいたらなかった。一方、MgF2基板上にも成膜を行ったところ、基板温度250℃でもBAsを形成し、より高温でもAsが薄膜中に残留することを見出した。高温では結晶成長速度が上がって薄膜全体が結晶化することが期待されるため、今後は高温での成長条件の探索が望まれる。また、BAs相が(111)面配向で成長したことから、この面と格子不整合の小さい基板への成膜も有効であると考えられる。そこで、今後の成膜に向けてZnO基板の熱処理条件を様々に変えることでステップテラス構造の清浄表面を得る条件を調べた。 一方、評価手法には当初計画に加えて、年度途中から学内共通機器を用いたオージェ電子分光法による元素分析とその深さ分析を可能にした。また、薄膜の熱伝導率測定には時間領域サーモリフレクタンス法を用いる予定であったが、今年度、顕微ラマン分光を用いる手法に関する論文が出版された。これを使えば学内で簡便に測定が可能であるため、測定環境を整備して、標準試料を測定して十分な精度が得られることを確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度から研究を開始して、まずはBAs相が形成される成膜条件を幅広く調べたが、当初の想定以上に成長領域が狭いことがわかった。特に、MgOやGaAs基板では今年度調べた範囲内では低温でしか相形成が見られず、成長速度が非常に遅いことが分かった。一方で、手掛かりを得るために、当初の予定に加えてMgF2基板にも成膜したところ、基板温度250℃でもBAs相を形成した。また、さらに高温条件でも薄膜中にAsが残留することを見出した。この基板依存性の理由はまだ明らかでないが、高温では結晶成長速度が上がるため、今後の研究推進に寄与する知見であるといえる。また、基板依存性が見られ、BAs相が(111)面配向で成長したことから、当初予定を広げて様々な基板に成膜することでさらに新たな知見が得られる可能性が考えられる。特にZnOは有力な基板候補であると考えられるため、今年度中にZnO基板の清浄表面を得る手法を確立し、今後の成膜の準備を整えた。さらに、評価手法でも当初計画を超えて新たにオージェ電子分光法や、顕微ラマン分光から熱伝導率を決定する手法を整備した。特に、熱伝導率測定が当初計画の時間領域サーモリフレクタンス法に比べて簡便に測定可能になったことで、薄膜評価の効率が高まるものと期待される。一方、BAsと化学的・結晶学的に近いIII-V族半導体を基板に用いた成膜も行ったが、現在までのところ期待した結果にはなっていない。その理由は、電子ビーム蒸着源がたびたび絶縁不良を起こし、繰り返し分解掃除や補修が必要であったことや、MgF2基板で想定外の興味深い結果が得られて詳細に成長条件依存性を調べるのに時間を要したためである。結果としてIII-V族半導体を基板にした実験は予定したほど実施できなかったため、今後はさらに詳細に調べる必要がある。
|
今後の研究の推進方策 |
今後はまず、MgF2基板への成膜で得られた知見に基づいて、高温での薄膜成長条件をさらに詳細に調べる必要がある。高温成長では成長速度が上がって、より結晶性の高い薄膜が得られるものと期待される。また、MgF2基板の例から基板依存性が大きいと思われるため、当初の予定をさらに広げて、様々な基板上に成膜を行う。特に、BAsの(111)面と格子不整合が小さい基板を中心に成膜を行う。すでにZnOを候補にその清浄表面を得る表面処理方法を検討したが、これをさらに進めたうえでBAs薄膜の成長を行う。一方、今年度はMgF2基板で想定外の興味深い結果が得られて詳細に成長条件依存性を調べたため、計画したIII-V族半導体基板での成膜が一部に留まっている。そこで、他の基板での成膜結果を参照しつつ、III-V族半導体上への成膜を検討する必要がある。一方、得られた薄膜の組成分析に当初はエネルギー分散型X線分析(EDX)を用いていたが、BとAsの特性線のエネルギーが大きく異なるために定量性に難があった。そこで、今年度、オージェ分光法による測定を可能にした。また、深さ分析も可能になったので、今後は得られた薄膜の評価がより一層推進できるものと期待される。さらに、今年度、顕微ラマン分光から熱伝導率を決定する手法に関する論文が発表されたが、いち早くこれに着目して測定環境を整備した。標準試料を用いた測定の結果、十分な精度で測定可能であることを確認できたので、今後はこの手法を適用することで、より迅速に熱伝導率を評価できるものと期待される。
|