研究課題/領域番号 |
21H01798
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大島 諒 京都大学, 工学研究科, 助教 (10825011)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | スピン波スピン流 / スピントロニクス |
研究実績の概要 |
本研究は、磁性体/非磁性体界面のスピン軌道相互作用とそのゲート電圧変調により、磁性金属薄膜中のスピン波スピン流を自在に制御することを目的とする。具体的には、ゲート電圧により(i)非磁性バッファ層との界面におけるスピン軌道相互作用の変調や(ii)強磁性チャネルの飽和磁化変調を行うことで、スピン波スピン流のゲート電圧制御を目指す。今年度は物性評価に要する極低温RFプローバーの導入と、ESR装置を用いた室温における非磁性バッファ層・キャップ層による外因性スピン波散乱の低減を試みた。また、磁性ガーネット導波路上の電極がスピン波におよぼす影響について、電極の膜厚依存性や絶縁層を挟むなど系統的な実験を行うことで検討し、その内容が英文学術論文に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的を達成するために、今年度は1. 飽和磁化変調による動作周波数のゲート電圧制御と2. 非磁性バッファ層・キャップ層制御による外因性スピン波散乱の低減による強磁性金属薄膜中のスピン波伝導の観測について研究を進めた。 計画1について、要となる低温測定を可能とする低温RFプローバー装置を購入し、立ち上げを行った。当初想定していた完成品から機能を絞り、最低限のものを購入することで予算内の購入を実現した。例えば、磁場印加に要する電磁石の電源などは、他の装置と共有することで費用削減を行った。また、ゲート電圧印加用のプローブを外し、RFプローブを1本だけにした。その結果、最低限のRF測定機能、磁場印加機能、そして温度調節機能を確認した。 計画2について、強磁性金属薄膜におけるスピン波散乱要因となりうる表面ラフネス・異種材料接合界面における異方性エネルギーの制御が、非磁性体バッファ層の材料選択により可能であることを確認した。これにより、厚さ10 nm以下の非常に薄い強磁性金属においてスピン波スピン流伝導と非相反性の観測に成功した。 最後に、磁性ガーネット導波路上の金属電極が導波路を伝搬するスピン波スピン流に及ぼす影響について議論した。スピン波スピン流素子・回路を設計する上で導波路上に電極材料を成膜するが、成膜後はスピン波が反射・減衰されることが知られており、緩和の要因として電極へのスピン流侵入、あるいは電極が磁性体であれば磁化による散逸などが挙げられていた。電極によるスピン波減衰について電極の膜厚依存性や絶縁層を挟むなど系統的な実験を行うことにより、わずか数十nmの金属の存在で減衰が始まり、その要因がスピン波のダイポール磁場による緩和であることを明らかにした。本研究はスピン波スピン流のゲート電圧制御素子を設計する上で重要な研究であり、英文学術論文雑誌に掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
第一に、低温環境でのスピン波スピン流伝導観測のため低温RFプローブの機能拡充を急ぐ。次に、人工反強磁性導波路を用いたスピン波スピン流伝導についての研究を開始し、スピン波スピン流のゲート電圧制御の準備を進める。また、室温領域で進めている非磁性バッファ総導入によるスピン波スピン流散逸の低減について、厚さ4 nmでの強磁性金属(NiFe合金)導波路を用いたスピン波スピン流伝導とその非相反性について観測できたため、研究成果をまとめて学術論文雑誌に投稿したいと考えている。得られた成果を用いて学会発表にも参加し、当該領域における情報収集と意見交換を努める。
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