今後の研究の推進方策 |
今後は、作製条件を確立した磁気結合の強さを調整できる基板 [Au / Co / Au(111)] を用いて、単分子磁石と強磁性体との間に働く層間磁気結合について明らかにする。具体的には、以下の項目に取り組む。 (1)スピン偏極STMによる磁気ヒステリシス測定 清浄化したAu(111)基板上に、Coを蒸着し続けてAuを蒸着し、Au / Co / Au(111)基板を作製する。その基板上に単分子磁石TbPc2を蒸着する。単分子磁石TbPc2の磁気モーメントと強磁性体Coの磁化がどのように磁気結合しているのかを明らかにするため、スピン偏極STMによりTbPc2とCoそれぞれの磁気ヒステリシス測定 [Rodary, Oka, et al., APL 95, 152513 (2009)] を行う。また、磁気結合がTbPc2とCoを隔てる非磁性層Auの膜厚にどのように依存するのかを明らかにする。 (2)近藤共鳴ピークの検出 Au(111)基板に吸着したTbPc2では、STS測定によるdI/dVスペクトルにおいて、近藤効果に起因する明瞭なピーク(近藤共鳴ピーク)の観察に成功している [Tadahiro Komeda, et al., Nat. Comms. 2,217 (2011)]。一方、単分子磁石の磁気モーメントがある方向に安定に固定されている場合、そのピークは交換相互作用により2つに分裂する [Phys. Rev. Lett. 108, 087203, (2012)] ことが予想される。そこで、Coと層間磁気結合によりTbPc2の磁気モーメントが固定されていることを検証するため、Au / Co / Au(111)基板に蒸着したTbPc2のSTS測定を行い、dI/dVスペクトルに観察される近藤共鳴ピークが分裂するのかどうか明らかにする。
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