研究課題/領域番号 |
21H01806
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
扇澤 敏明 東京工業大学, 物質理工学院, 教授 (80262294)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 表面物性 / 粘着 / ゴム / メニスカス / 粘弾性 |
研究実績の概要 |
10μm前後の粒径を有する室温で固体微粒子(シリカ、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレン、ポリプロピレン)を、これらの直径よりも十分に厚い160μmのポリブタジエン(ブタジエンゴム(BR))膜状に散布し、沈降現象を観察した。ここで用いた固体微粒子は、それぞれ表面張力およびBRとの界面張力が異なるにもかかわらず、驚くべきことに沈降挙動(速度)はほぼすべて同じであり、沈降最終ステージの停止位置のみ異なっていた(ただし、沈降速度は固体微粒子の粒径には大きく依存した)。さらに、ゴム種を変えて(フッ素ゴム、アクリルゴム)、同様の実験を行ったところ、沈降挙動はゴム種に大きく依存した。用いたゴムよりも表面張力が低い粒子でも同様に沈降した。このことから、表面張力の大きい固体微粒子表面を、表面張力が小さいゴムで覆って表面を安定化するために、このような現象が起こるという仮説が間違っていたことが明らかにされた。沈降停止位置ではYoungの式が成立していたことから、平衡接触角に達するまで沈降が起こり、Youngの式からのずれが沈降の駆動力となっていると考えられる。 令和3年度において購入した高解像度ズームレンズを搭載した光学顕微鏡を使って固体微粒子の直径よりも薄いゴム(ポリブタジエン等)膜上に散布した固体微粒子(シリカ、各種高分子等)表面に形成されるメニスカスの形状を観測可能か検討したところ、直径50μmの微粒子であればある程度の観察が可能であるが、10μmは難しいことがわかった。ただし、固体微粒子の直径よりも十分に厚いゴム膜上に散布することにより起こる沈降挙動に対しては、10μmでも工夫により観察可能なことが見い出せた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」にも記載したように、固体微粒子の沈降挙動に関して、各種微粒子および各種ゴムにおける挙動を測定することができ、Youngの式が成立する形状つまり平衡接触角で沈降が止まることが明らかにされた。これは、沈降挙動の駆動力がYoungの式からのずれであることを示しており、「なぜ沈降-停止が起こるのか」についてある程度明らかにされたことになる。また、ゴムを固定して異なる固体微粒子を用いても、沈降の初期から中期においてその沈降挙動がほぼ同じであることから、これらの段階ではゴムの性質つまり表面張力および粘弾性が支配因子であり、ゴムと微粒子間の界面張力はほとんど寄与しないことが分かった。これらは、非常に重要な知見である。 高解像度マイクロスコープ等を用いて、固体微粒子表面に形成されるゴムのメニスカスのリアルタイム形状観察や原子間力顕微鏡を用いた固体微粒子とゴムの間に働く力の同時計測については、現在も測定を進め検討を行っている段階である。これが進めば、固体微粒子にゴムによって働く「メニスカス力が粘着機構の主要因であるか」について、ある程度の考察が得られるものと考えられる。また、「沈降のスピードは何が支配しているか」については、固体微粒子の粒径が大きく影響を及ぼすことが分かったが、ゴムの粘弾性的性質との関係については現在測定中である。 これらのことから、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
現在、高解像度マイクロスコープ等を用いて、固体微粒子表面に形成されるゴムのメニスカスのリアルタイム形状観察や原子間力顕微鏡を用いた固体微粒子とゴムの間に働く力の同時計測について検討中であるが、微細であるが故の困難点が多い。レンズの工夫や観察方向(光の当て方等も含む)の工夫、ソフトウェアによる構造情報の抽出といったことなど多面的な方法により検討を行い、推進を図る。 沈降挙動におけるゴムの粘弾性的性質との関係については、固体微粒子(シリカ)およびゴム種を固定し、分子量の変化や末端変性、油展の有無など同じゴム種でありながら性質の異なるものを用いて同様の実験を行い、その効果について詳細に調査することによって、推進を図る。 タッキファイヤと呼ばれる粘着付与剤をゴムに加えて「べたつき」を調整し、より実際の粘着剤に近い材料を作製し、メニスカス形成や沈降挙動がどのように変化するかを調べる。そして、原子間力顕微鏡を用いて、タッキファイヤ添加ゴムの表面における構造(タッキファイヤの表面偏析、相分離等)を観察し、粘着に関連する物性との関係を考察する。これらを基に、粘着という性質におけるタッキファイヤの役割を探り、「タック」発生機構とそれにかかわる因子の解明を目指し、研究の推進につなげる。
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