研究課題/領域番号 |
21H01808
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
宮本 聡 名古屋大学, 工学研究科, 特任講師 (70709097)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 同位体工学 / シリコン / 局在水素 / 量子計算 |
研究実績の概要 |
本研究では、大規模量子計算に利用するシリコン同位体薄膜の高品質化と高性能化を目指し、局在水素機能を利用して効率的な歪み緩和と極限的な界面傾斜抑制を同時達成する。シリコン量子ビットにおける制御性を決めるバレー分離を、同位体薄膜の界面制御により理論スケーリング限界に引き上げることを目指す。このために、今年度は下記の3点に注力して研究を行った。 1点目は、水素導入条件の効率的な探索法の調査である。歪み、組成、結晶性の材料解析手法である顕微ラマン分光をベースに、水素の熱拡散と局在化過程におけるその場観察法を確立した。その過程で、格子振動の温度変化から多重フォノン過程のモデル再現、歪み緩和達成に適した薄膜構造の設計を行った。 2点目は、水素局在化、転位制御、界面傾斜抑制の基本検証である。周期的な歪み蓄積層を有する薄膜構造に対し水素導入し、透過型電子顕微鏡観察から水素局在化による転位導入を実験的に確認した。また、周期的界面の傾斜角を高精度に構造評価し、局在水素と転位導入に対する界面傾斜の抑制効果を示した。加えて、シリコン同位体と重水素を同時援用した3次元アトムプローブ法で、測定バックグランドとの質量干渉効果を抑制した水素検出が可能となった。 3点目は、バレー分離を測定するための高精度電気測定系の構築である。低温かつ高磁場印可できる超伝導マグネットに、低雑音DA変換器、高速デジタイザー、高周波測定器を組み込んだ。基準抵抗素子から発生する電気信号を増幅、相関雑音を取得し、熱雑音の理論値に近い値が得られた。加えて、励起キャリアの再結合過程に関する評価技術を拡張し、高周波反射測定を利用した非平衡ダイナミクスと電荷雑音の同時評価法を開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
装置の構築と各要素技術の基本検証が完了し、本研究の核となるツールが揃ってきた為。
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今後の研究の推進方策 |
今年度構築したその場観察手法と設計した薄膜構造を組み合わせることで、水素導入条件を最適化するハイスループット実験を行う。電子回折をもとにした結晶傾斜角イメージングにより、水素導入で形成した転位近傍の局所構造を検証する。構築した低温、高磁場、低雑音測定系で電子集団を扱う量子ホール状態を測定することで、局所界面構造を反映したバレー分離を計測する。最終的に、局在水素機能を用いた界面制御によりバレー分離の理論限界を達成するため、そのスケーリング則を界面構造と量子物性の両面から実験的に検証する。 水素とシリコンの同位体を援用した3次元アトムプローブにより、その同位体の複合体も合わせた空間相関を解析することで、水素クラスターの精密分布と局在状態を検証する。従来用いられる二次イオン質量分析と、構造スケーリング、質量干渉効果に関して比較し、転位発生に必要となる水素閾値濃度を検証する。局在水素を利用した転位の位置・方向といった欠陥制御工学へと発展させる。 初年度行う予定だった、デバイス作製プロセスの洗練化を行い、高感度、高速雑音測定系については引き続き立ち上げを継続する。高周波回路を設計して組み込むことで、ヘテロ構造内に埋め込まれるシリコン同位体薄膜や汎用ゲートデバイスにおける電荷雑音測定への応用が期待できる。これら技術を統合して、シリコン同位体薄膜の量子計算グレード化の礎とする。
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