昨年度までに拡張した顕微分光方式の昇温脱離分析法をベースとして、従来法による測定結果と比較される温度での水素脱離挙動を示すことが分かり、さらに数桁向上した水素検出効率を有する超高感度なプロセス計測技術を開発した。今年度はこの技術を基に効率的な水素導入の条件探索を重点的に実施し、シリコン量子計算基板となる構造の歪み緩和促進を両立する条件を見出した。その過程で、水素導入で副次的に発生するエッチング効果とその抑制の重要性を明らかとした。また昨年度までに得られた3次元アトムプローブの実験結果を詳細に解析した。複合体分離解析を基に、シリコン・水素の同位体分子種による質量干渉効果と、測定条件に依存する背景水素の寄与を定量的に示し、これによりクラスター化に必要な閾値濃度の限界値を与えた。加えて、時空間相関分析による多重イオン検出の影響を検証し、水素化物を含む高い水素検出効率を基にクラスター内の局所水素濃度を精密決定した。結果として、構造スケーリングで決定した欠陥面方位に対する水素濃度の依存性は核形成エネルギーの違いを反映し、水素同位体の違いに依らず水素含有量が同程度となることを見出した。クラスター化の理論的検証として、水素導入時に注入される水素と空孔の濃度比を変化させるモデル解析を実施し、空孔の凝集と水素の結合からなる構造を再現した。さらに、汎用ゲートデバイス構造における局所電子密度の計算を基に、電荷雑音検出の基本設計構造を定め、層間絶縁膜の検討を含む試作を実施した。また同位体制御シリコン量子計算基板に実装した量子ビットにおいて、個々のバレー分離を調査した。強磁場量子ホールで測定される平均バレー分離値と同等の値となることが分かり、また隣合う量子ビット間でバレー分離が大きく左右される構造由来の面内不均一性を示した。
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