研究課題/領域番号 |
21H01809
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
中塚 理 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (20334998)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | Ⅳ族半導体 / エピタキシャル成長 / エネルギーバンド / 界面 / ゲルマニウム錫 |
研究実績の概要 |
本研究では、一般的な熱平衡状態では存在し得ない非平衡的な規則系あるいは不規則系の新奇超高Sn組成IV族混晶薄膜を創製し、その電子物性の解明・制御に基づいて、新世代固体素子発展に資する工学基盤の構築を目指す。Sn組成50%に達する超高Sn組成GeSnあるいはSiSn薄膜の創製、およびその結晶・電子物性を解明し、次世代ナノエレクトロニクスの発展に資する、新奇IV族混晶半導体薄膜の物質科学の深耕を図る。本年度の主要な成果を記す。 (1)大格子定数InP(001)基板上においてけるSn組成25%のGeSn混晶のエピタキシャル成長について、基板清浄化条件や成長温度が形成層の結晶性に及ぼす影響を調査した。顕微ラマン分光、TEM/EDXによる詳細分析から、InP層清浄化時に形成される表面析出Inドットが、低Sn組成GeSn領域の形成原因であることを見出し、Inドット形成を抑止した清浄表面形成が高Sn組成GeSnエピタキシャル層実現に有効であることを示した。その結果、双晶形成や積層欠陥のない高品質で均一な高Sn組成GeSn層を形成できることを実証できた。 (2)絶縁膜上への30%以上の高Sn組成GeSn層とSiO2層との積層によって、Sn組成25%を超える多積層GeSnナノドット層の形成を顕微ラマン分光法などから実証した。また、GeSnナノドット試料のフォトルミネッセンス(PL)特性から、波長2μm、半値幅0.7μmのPL発光を検出し、ナノドット化によるPL波長制御を実証した。 (3)GeSn/GeSiSnヘテロ構造による多重量子井戸構造の形成とその結晶・光電物性を評価した。Sn組成9%のGeSn層を有する二重量子井戸構造のPL測定の詳細評価から、伝導帯Γ点およびL点それぞれに起因する発光を観測できた。また、350℃以下の適切な熱処理によって量子構造試料のPL特性が改善することを実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平衡固溶限界を大きく超える30%以上の高格子置換位置Sn組成GeSn層の形成とその成長条件、結晶・電子物性に関する成果を得ており、次年度以降に向けた結晶成長技術と知見の蓄積が進められている。大格子定数化合物基板上への高Sn組成・高結晶品質GeSnエピタキシャル層の形成に向けた結晶基板の清浄化および結晶成長条件が明確化されるとともに、その結晶・電子物性が明らかとなってきた。これまでの結果を踏まえて、ナノ構造の活用によって平衡固溶限界を超える高Sn組成GeSn結晶の低温形成を実証できた。また、デバイス応用に耐えうる均一・大面積の薄膜形成には、基板清浄化技術の確立が重要な要素の一つであることが見出されてきた。また、各種ヘテロ構造の光電物性評価から、適切かつ優れた結晶界面を有するキャリア閉じ込め構造の形成によって、効果的な電子・光電特性の制御を実現できることを実証できた。
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今後の研究の推進方策 |
従来にはない非平衡的新規IV族混晶半導体の創成技術の構築が進んでおり、最終年度においては前年度までの研究を踏まえ、超高Sn組成GeSnあるいはSiSnエピタキシャル層の諸物性解明とデバイス構築のための半導体プロセス検討を進めていく予定である。 (1)大格子定数基板上に形成した高Sn組成IV族混晶エピタキシャル薄膜の結晶・光学物性:GaSbあるいはInAs基板の表面清浄化条件を構築するとともに、当該基板上への高Sn組成GeSnあるいはSiSn層の形成と結晶・電子・光電物性の評価を進める。 (2) 高Sn組成IV族混晶半導体の電子・光電物性評価:X線光電子分光法や赤外吸収分光などを活用して狭ギャップ高Sn組成IV族混晶のエネルギーバンド構造の詳細解明を進める。このとき、薄膜の結晶ひずみやSn組成の影響を定量評価し、規則/不規則構造の有無や間接・直接遷移化や伝導帯バレー構造の詳細を分析する。 (3) 新規IV族混晶と絶縁膜や金属との界面における諸物性の解明:デバイス応用に向けた基礎的プロセス構築のため、金属/半導体や絶縁膜/半導体接合の形成技術の構築とその電子物性の解明を進める。
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