研究課題/領域番号 |
21H01810
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
菅 大介 京都大学, 化学研究所, 准教授 (40378881)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | プロトニクス / 酸化物磁性体 / 磁性制御 / エピタキシャル薄膜 |
研究実績の概要 |
静電キャリア注入とは異なる新原理に基づいた磁化制御技術として、固体中へのイオン注入や固体プロトニクスを基軸とした磁化制御技術に取り組んだ。パルスレーザー堆積法でエピタキシャル成長させた酸化物磁性体NiCo2O4に着目し、NiCo2O4薄膜をチャネルとし、プロトン導電性を有する電解質であるナフィオンをゲート絶縁体とした電界効果トランジスタ構造において、プロトンを電気化学的に脱挿入し、磁性などの物性制御を行った。プロトンを活用することで、比較的厚い薄膜試料であっても物性制御可能となる。この点は静電キャリア注入に基づいた手法とは対照的な点である。ゲート電圧印加によって誘起されるプロトンの脱挿入に応じて、薄膜チャネルの電気抵抗が可逆的に変化すること、また異常ホール効果の精密測定から磁気異方性も変調できることを見出した。またナフィオンを活用したプロトンの脱挿入を酸素欠損型酸化物磁性体SrFeOxへ適用し、物質・物性開拓を行った。SrFeOxエピタキシャル薄膜に対して、プロトン脱挿入を行うことで、薄膜チャネルの電気抵抗を不揮発に可逆的に変調できることを見出した。水素はそもそも軽元素であり、特に体積の少ない薄膜試料においては水素の検出は難しいとされているが、トランジスタ構造を工夫することで、弾性反跳粒子検出法によって電気化学的なプロトン脱挿入前後における薄膜中の水素量変化の定量評価にも成功した。得られた結果から、SrFeOxは、これまで水素を取り込まないと考えられてきたが、電気化学的にプロトンを脱挿入することでプロトンを含んだ新物質相HxSrFeOyを安定化できることも明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目的としていたプロトンの脱挿入をベースにした物性制御技術や、薄膜中の水素分析技術を確立できつつある。今後の研究活動の基盤となるものである。また得られた研究成果からは、電気化学的なプロトン脱挿入が磁性制御や物質・物性開拓に有用であることも見出せつつある。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に得られた実験技術をベースにして、さらにプロトニクスを基軸とした磁性制御や物性開拓を推進する。様々な酸化物磁性体や、エピタキシャル薄膜化によって安定した非平衡物質相に対して電気化学的にプロトン脱挿入することで、磁性の電界制御さらには新奇な物質・物性開拓を目指す。
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