研究実績の概要 |
固体中への電気化学的なプロトン脱挿入といった固体プロトニクスを基軸とした無機固体材料の伝導性や磁化をはじめとした物性制御に継続して取り組んでいる。酸素欠損を持つペロブスカイト酸化物Sr(Fe,Co)Oxの薄膜をチャネルとし、プロトン導電性を持つ固体電解質をゲート層としたトランジスタ構造を作製し、ゲート電圧印加によって電気化学的なプロトン脱挿入を行い、構造および物性変化を詳細に調べ、以下のことを見出した。(1)Co量の増加とともに酸素欠損の秩序化が安定化され、酸素欠損を持つ結晶格子中ではより多くの水素が蓄積可能となる。(2)あるFe/Co量において、薄膜の電気抵抗率が低くなり、水素挿入によって薄膜を高抵抗状態へと変化させることで、水素脱挿入によって、3桁以上にも及ぶ可逆的かつ不揮発な抵抗変化が実現できる。これらの結果は、酸素欠損がランダムに分布した場合には、水素注入によって酸素欠損が生成してしまい、水素蓄積はほとんど進行しないのに対して、酸素欠損が規則配列した場合には、水素注入に伴う酸素欠損の形成が抑制されるために、水素蓄積が促進され、水素脱挿入による物性制御が可能になったことを示すものである。これの結果は、水素吸蔵物質の設計指針を与えるものである。また、プロトン注入の際に固体電解質と薄膜チャネルとの界面に蓄積する水素が薄膜チャネルへの水素蓄積量に強い影響を与えることも見出した。薄膜中の構造特性に加えて、水素注入量を調整することも、水素チャネルへ効率よく水素蓄積するためには重要であることがわかる。
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