研究課題/領域番号 |
21H01815
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
庭野 道夫 東北大学, 歯学研究科, 学術研究員 (20134075)
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研究分担者 |
岩田 一樹 東北福祉大学, 総合マネジメント学部, 准教授 (20515457)
山口 政人 東北福祉大学, 健康科学部, 教授 (50326724)
但木 大介 東北大学, 電気通信研究所, 助教 (30794226)
馬 騰 東北大学, 材料科学高等研究所, 助教 (10734543)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ナノバブル / バブル合体 / ナノ反応場 / 界面反応 / 界面構造 / 赤外分光法 / 電子スピン共鳴法 / 核磁気共鳴法 |
研究実績の概要 |
ナノバブルは超微小サイズの気泡で、通常の気泡にはない特異な性質を有する。我々がこれまでの研究で明らかにしてきた特異な「バブル合体(Coalescence)」現象は注目すべき特性である。本年度はナノ細孔加圧法を用いて形成した約100 nm径に粒径が揃ったナノバブルを対象として、ナノバブル界面構造の解明と、バブル合体機構の解明、合体に伴う特異なナノスケール気液・固液界面反応の解明を中心に研究を進めた。 ・界面構造の解明に関しては、赤外分光計測結果と理論計算結果の比較、さらに核磁気共鳴計測結果から、界面に環状構造の水分子クラスターが存在することを確認した。この結果はナノバブルの長寿命性を解明する上で重要な手がありを与えるものである。 ・合体機構解明に関しては、粒径が同じナノバブル同士が合体し易いという特異的な現象を説明する物理モデルを提案した。このモデルでは、バブルを風船のような弾性体と見なし、二つのナノバブルが衝突したときの反発エネルギーがそれぞれのバブルの粒径に依存し、衝突の際のエネルギーがこの反発エネルギーによって決まるある閾値を超えた時に合体することを仮定している。このモデルに基づいてシミュレーション計算を行った結果、特異的な合体現象を概ね説明できた。 ・ナノバブルの気液・固液界面の反応の研究では、ナノバブル同士が合体するとき、また他のナノ粒子と衝突するときに生成される反応生成物の解析を赤外分光法、電子スピン共鳴法と蛍光分析法を用いて行った。その結果、アルコールなどの有機溶剤中のナノバブルは水中と大きく異なる挙動(粒径や界面反応物など)を示すことを見出した。また、バブル同士が合体するときに活性酸素が生成されること、特に二酸化炭素ガスを内包したナノバブルの場合にその生成が顕著であることを見出した。この結果は今後細菌の除菌に活用できると期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
界面構造の解明と合体機構の解明はほぼ予定通り進展した。特筆すべきは、当初予定していなかった核磁気共鳴(NMR)によるスピン緩和時間の計測により、界面構造について貴重な情報を得ることができたことである。界面は水分子クラスターより成ることが実験から確証が得られたが、それらのクラスターがどのような配列構造になっているかが不明であった。水分子クラスターは、環状構造の水素結合リングと、リング面から垂直方向に突き出た自由OH基からなり、自由OH基により大きな双極子モーメントを持っている。バブルの界面ではこの双極子モーメントが内包ガス側に向いている仮定すると、バブル界面が安定になり、なおかつこれまでの先行研究で明らかにされている表面電荷やゼータ電位を統一的に説明できる。NMRの実験結果から界面の硬さが内包ガス種により異なり、硬い順に窒素>酸素>二酸化炭素となっていることが明らかにできた。この結果は、水分子クラスターの自由OH基が内包ガス側に向いていることを強く示唆する。すなわち、双極子モーメントが内側に向いているとした我々が新しく提唱した界面構造モデルを支持するものである。したがって、NMRの結果は当初の期待を上回る研究成果である。
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今後の研究の推進方策 |
界面構造と合体機構に関しては、重要な実験結果が揃ったために、それらをまとめて論文や学会等で公表していく予定である。合体機構については、ナノバブルの粒径分布の計測を継続して行い、内包ガス種による違いなどを明らかにし、界面構造との関連でメカニズムのさらに詳細な解明を目指す。今後の重要な研究テーマの一つは、有機溶媒(アルコールなど)中のナノバブルの挙動であり、今後集中的に究明していく予定である。特にアルコール中のNB界面構造の解明は、水との比較において非常に興味深い。水の場合には水分子クラスターが界面に存在したが、アルコールの場合にはどのような構造が界面を安定化させるかについて、主に赤外分光法を用いて究明していく予定である。ナノバブル間相互作用(気液界面反応)の解明も集中的に取り組む研究テーマである。ナノバブル同士やナノバブルとリポソームの邂逅時に誘起される化学反応を、電子スピン共鳴法、蛍光分析法、赤外吸収分光法などの計測技術を駆使して引き続き解明する。特に、バブル同士が合体するときに活性酸素が生成されること、特に二酸化炭素ガスを内包したナノバブルの場合にその生成が顕著であることを見出しているため、この原因の解明を目指す。さらに、活性酸素の発生は、ナノスケールの反応場で起きる特異的な現象であり、ナノバブルの除菌への活用など応用上も重要な研究テーマであるため、次年度以降は集中的に研究を遂行する。今年度の後半で蛍光分析法を用いた活性酸素の検出の実験を行う予定であったが、コロナ禍による機材の納入が遅延したために研究がやや遅れた。次年度はこの遅れを取り戻すべく研究を鋭意遂行する。
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