研究課題/領域番号 |
21H01817
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
吉澤 俊介 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 先端材料解析研究拠点, 主任研究員 (60583276)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 超伝導 / 表面・界面 / 走査型トンネル顕微鏡 |
研究実績の概要 |
空間反転対称性の破れた超伝導体では、超伝導を担うクーパー対が偶奇パリティの混じったものとなるとされ、空間反転対称性の破れの直接の帰結である重要な特徴とされる。このことを実験的に確かめるため、本研究は面直または面内の空間反転対称性の破れた「原子層超伝導体」において磁場中・極低温走査トンネル顕微鏡(STM)による詳細な分光測定を行う。 2022年度にはNbSe2の電荷密度波(CDW)の研究で大きく進展した。2021年度にSTMの性能評価の一環としてNbSe2のSTM測定を行ったおり、そこで取得した高解像度STM像の解析を行ったところ、電荷密度波が局所的に3×3周期の2種類の整合構造をとり、それが互い違いの三角形ドメイン構造を作っている様子を明瞭に可視化することに成功した。そのドメイン構造は1980年前後に中西・斯波らが発表したランダウ自由エネルギーに基づく理論で予想されていたことを見出し、時間依存ランダウ・ギンツブルグ理論にもとづくシミュレーションを行って実験的なドメイン構造をよく説明することを確かめた。 また、半導体表面の原子層超伝導体として、異方的超伝導が示唆されているシリコン基板上のスズ原子層の作製と測定を試みた。ホウ素が析出したSi(111)表面を使うことにより、スズ原子層特有のモット絶縁体ギャップが減少し金属に近づくことは確認されたが、超伝導が発現する試料は得られなかった。超伝導ニオブ探針のテストも実施した。Au(111)表面で(探針の)超伝導ギャップを観測できたが、測定中に探針先端が飛んでしまい、本番実験に用いることはできなかった。セレン蒸着用の真空装置に関しては、薄膜製作に取り掛かる前に、試料搬送機構の製作を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
NbSe2の電荷密度波のSTM観察結果が想定より進んだ解析を含めた形でまとまり、まもなく論文投稿できる段階である。当初計画に含まれていなかったスズ原子層の実験を追加で進めることができた。また、セレン蒸着用の真空装置についても製作が進んでおり、来年度には実験に使える見込みである。全体としておおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度はNbSe2の電荷密度波の論文を投稿し、出版を急ぐ。セレン蒸着用の真空装置については、各蒸着源の調整を済ませ、薄膜作製に取りかかる。さらにSTM装置への試料搬送と磁場中STM測定を実施する。超伝導探針を使ったエネルギー分解能向上については、より硬い超伝導体の探針への流用を検討する。
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