空間反転対称性の破れた超伝導体では、超伝導を担うクーパー対が偶奇パリティの混じったものとなるとされ、空間反転対称性の破れの直接の帰結である重要な特徴とされる。このことを実験的に確かめるため、本研究は面直または面内の空間反転対称性の破れた「原子層超伝導体」において磁場中・極低温走査トンネル顕微鏡(STM)による詳細な分光測定を行う計画であった。 2023年度は、NbSe2の電荷密度波(CDW)に関する2021年度から2022年度にかけての実験および解析結果で論文にまとめて投稿し、2024年1月に出版された。この論文では、NbSe2の電荷密度波が局所的に3×3周期の2種類の整合構造をとり、それが互い違いの三角形ドメイン構造を作っている様子を明瞭に可視化することに成功したものである。そのドメイン構造は1980年前後に中西・斯波らが発表したランダウ自由エネルギーに基づく理論で予想されていたこととも明らかにした。この成果については、物質・材料研究機構と東京理科大学との共同でプレスリリースも出したほか、固体物理(アグネ技術センター)からの執筆依頼も受けている。この成果は、面内の空間反転対称性の破れた単層 NbSe2 の研究を進めるうえでも、重要な基礎となる。 また、面直の空間反転対称性の破れた超伝導体である In/Si(111) 原子層については、試料作製に用いるルツボをこれまで使用していた電子ビーム加熱式の3源エバポレーターのかわりに、モリブデン箔を丸めた簡易のルツボを通電加熱して使用したところ、ほとんど無欠陥に近い純良試料ができることがわかった。この試料では、これまでわれわれが作製してきた試料よりも大きな超伝導ギャップが観測された。この純良試料において常伝導状態における準粒子干渉の測定と解析を行ったので、論文執筆を進めている。
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