研究課題/領域番号 |
21H01819
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
深谷 有喜 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 先端基礎研究センター, 研究主幹 (40370465)
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研究分担者 |
福谷 克之 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (10228900)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 電子回折 / 水素 / 表面 |
研究実績の概要 |
本研究では、反射高速電子回折(RHEED)法の高度化及び強度シミュレーションによる最適なRHEED条件の探査により、物質表面上の水素の原子位置を高精度に決定することを目的としている。本年度は、試料冷却機構及び方位角プロット測定システムの構築、水素吸着Ni(111)表面の予備実験を実施した。 現有のマニピュレーターに取り付け可能な冷媒貯蔵型の冷却システムを作製した。液体窒素を用いた冷却試験を行い、約10分で試料温度が100 Kに到達することを確認した。マニピュレーターのモーター駆動化により方位角プロットの測定を可能にした。既知の表面構造であるSi(111)を用いた動作試験を行い、鏡面反射スポット強度の方位角プロット測定に問題がないことを確認した。 上記の実験装置の構築後、本研究の最初の測定対象であるNi(111)-2×2-2H表面の実験に着手した。始めに、スパッタ・アニールによる表面清浄化を実施し、1×1構造の形成を確認した。ロッキング曲線の実験データは、ランプリングのない表面構造を仮定した強度計算により再現可能である。続いて、100 Kに保たれたNi(111)-1×1表面に水素曝露を行い、5~6ラングミュアの曝露量で2×2-2H超構造が発現することを確認した。この結果は以前の報告と矛盾しない。RHEEDビーム照射による2×2スポット強度の時間変化を測定し、電子ビーム衝撃による水素脱離が小さいことを確認した。最後に、対称性のよい入射方位においてロッキング曲線の予備測定を実施した。また、水素吸着Pd(001)表面のRHEED強度シミュレーションの成果が学術誌に掲載となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、試料冷却機構及び方位角プロット測定システムの構築を完了した。また、本研究の最初の測定対象であるNi(111)-2×2-2H表面からのロッキング曲線の予備測定を実施した。次の測定対象であるPd(001)-2×2-H表面については、強度シミュレーションの結果が学術誌への論文掲載に至っている。以上により、「おおむね順調に進展している。」と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、Ni(111)-2×2-2H表面のロッキング曲線及び方位角プロットの精密測定を進めるとともに、Pd(001)-2×2-H表面の実験に着手する。Pd基板表面では、Niの場合と比較して基板元素からの影響が回折強度に強く現れ、水素の位置決定をより困難にさせることが予想される。しかし事前の強度シミュレーションにおいて、Pdのような比較的重い元素で構成された基板表面においても水素位置に敏感なRHEED条件が存在することがわかった。ここで見出した最適な実験条件を最大限に利用することで、Pd(001)表面上の水素の位置決定へと展開する。始めに、スパッタ・アニールによりPd(001)表面の清浄化を行い、1×1構造からのロッキング曲線の測定及び動力学的回折理論に基づく強度解析から、水素吸着前におけるPd表面原子のランプリングを決定する。続いて、試料を100 Kに冷却し、水素曝露により2×2構造の発現を確認する。事前の強度シミュレーションにより見出した、表面水素の位置決定に最適な入射方位においてロッキング曲線を測定する。同様にして最適な視射角に設定して方位角プロット測定を実施する。強度計算との比較から、Pd(001)表面上での水素位置を決定する。第一原理計算等で報告されている文献値と比較検討を行い、本研究で実験的に決定した表面水素の原子配置の妥当性について議論する。ここでは、サブサーフェスに位置する水素の可能性についても議論する。強度シミュレーションによる水素位置決定のための最適なRHEED条件の探査も継続して進める。
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