令和4年度末に,パラフィンをガラス基板上に蒸着することで透明基板上に効率よく氷単結晶のベーサル面およびプリズム面をヘテロエピタキシャル成長させることが可能であることを見出した.令和5年度は,この発見により,当初の目標であった氷単結晶表面での微粒子によるエバネッセント光の散乱をその場観察することに成功した. 一方で,微粒子による擬似液体層の生成メカニズムに関しては,当初予想していた微粒子-氷界面の間の相互作用(ファンデルワールス相互作用に代表される界面ポテンシャル)による濡れ転移に起因するのではなく,微粒子が氷結晶内部に取り込まれる際に生じるらせん転位などの結晶欠陥に由来することが分かってきた.このような結晶欠陥により誘起される擬似液体層は,欠陥のない結晶表面の擬似液体層よりさらに低温域(-15℃近傍)においても存在し,高い準安定性を示した.令和5年度は主にラテックス粒子(直径2μm)を標準微粒子として用いたが,結晶欠陥を誘起する観点からはさらに粒径の小さい粒子でも構わないと考え,金ナノ粒子でも同様の実験を進めた.予備的な結果ではあるものの,現時点ではラテックス粒子と同様の結果が得られている.引き続き粒子のサイズや表面修飾が結晶欠陥の誘起や擬似液体層の生成にどのように関与するのかを系統的かつ包括的に調べることで,更なる研究の広がりが期待される. また,令和4年度に発見した塩化ナトリウムの潮解と氷の表面融解の間のアナロジーに関する研究も引き続き進めた.特に上記の微粒子による効果が潮解においても発現するか,すなわち微粒子は潮解水膜を誘起するか,について検討した.その結果,微粒子が塩化ナトリウム表面に付着することにより,より低湿度領域まで潮解液滴が微粒子近傍に残り,擬似液体層と同様,高い準安定性を示すことが分かった.この結果は,2つの現象のさらなる類似性を強く示唆するものである.
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