研究課題/領域番号 |
21H01838
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
志村 努 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (90196543)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | メタ表面 / メタ原子 / 電磁界解析 / 振幅・位相・偏光全制御 |
研究実績の概要 |
2重位相Siメタ表面の設計を行い、振幅・位相・偏光が任意に変調可能であることを示した。数値シミュレーションには、RCWAアルゴリズムを用いた。形状の異なる2個のメタ原子をペアとして、これを周期的に無限に敷き詰めた条件で、計算を行った。振幅は規格化した上で0~1の間で、位相は0~2π、偏光はすべての状態(任意の楕円偏光)を取りうることを確認した。 この設計に基づき、メタ原子の作製を行った。電子ビームリソグラフィーを用い、SiO2基板にSiのメタ原子を作製した。1辺が100 nm程度以上のサイズの場合には、設計通りのメタ原子が作成できたが、100 nm以下の場合には設計値通りのサイズとは大きく異なる、あるいは、形状が大きく崩れてしまう結果となった。これは現状で我々が使用できる電子ビームリソグラフィー装置の性能の限界からくるものであり、今後はより微細な加工ができる装置の使用を検討する。同時に、メタ原子のサイズを100 nm以上に制限した上で、メタ表面の設計を行うことも今後の課題である。 以上とともに、作製したメタ表面の光波の変調特性を計測するための干渉計による計測システムを構築した。これにより、変調された光波の振幅、位相、偏光状態の計測が可能となった。設計通りに作製できた、比較的サイズの大きなメタ原子によるメタ表面では、数値シミュレーション結果を再現する測定結果が得られた。 今年度の研究により、少なくともわれわれの提案した2重位相メタホログラムの原理が有効であることが確認できたことが今年度の最大の成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2重位相Siメタ表面の設計に関しては、予定通り順調に進捗している。数値シミュレーションによる設計は順調に行われており、光波の変調シミュレーションも確立している。この結果、われわれの2重位相メタ表面のアイディアの有効性が実証された。 問題は、電子ビームリソグラフィーを用いたメタ表面の作製である。1辺が100 nm以下のメタ原子の場合には設計値通りの作製が困難であることが現在の問題である。作製技術の向上を図ることももちろんだが、より現実的なのは、メタ原子のサイズを100 nm以上に制限した上で、メタ表面の設計を行うことであると考えている。今後は以上の制約を課した上で設計を行い、実際のメタ表面を作製する。 作製したメタ表面による光波の変調特性の計測は、順調に実行できている。干渉計による計測システムを構築し、これにより、変調された光波の振幅、位相、偏光状態の計測が可能となった。設計値通りに作製されたメタ表面では、数値シミュレーション結果を再現する測定結果が得られた。 これまでの成果により、少なくともわれわれの提案した2重位相メタホログラムの原理が正しく機能することは確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
2重位相Siメタ表面の設計を行い、振幅・位相・偏光が任意に変調可能であることを示すことができたが、メタ原子のサイズが100 nm 程度以下になると、実際の製作が困難であることがわかった。このため、今後はメタ原子のサイズに下限を設けた、制限された条件での設計を試みる。設計にはRCWAの他、FDTD、FEMの使用も考える。これらによりメタ表面全体による変調だけでなく、個々のメタ原子内部の電磁界解析を行い、1個のメタ原子による光場の変調を詳しく解析する。 その上で、継続して電子ビームリソグラフィーによるメタ表面の作製を試みる。さらに作製したメタ表面による光波の振幅・位相・偏光の変調性能の計測を行う。 設計に関しては、サイズの下限を設けた条件で、1.無限に繰り返す周期境界条件、2、長方形あるいは正方形の単位領域を設定し、一つの領域内は同一メタ原子の周期配列とするが、異なる単位領域では異なるメタ原子配列とする構造、3.連続的にメタ原子のサイズ・形状が変化する構造、での設計を試みる。 計測に関しては、現状では干渉計による光波計測システムが構築済であるが、これに加えて干渉計を使わない、ハルトマン格子とタルボット効果を用いた計測システムの構築を試みる。干渉計は高感度であることと裏腹に、安定度が低いという欠点を持つ。本システムはこの弱点を解決する方式である。
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