研究課題/領域番号 |
21H01839
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
鈴木 健仁 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60550506)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | テラヘルツ波 / アンテナ / メタサーフェス / メタマテリアル / 極限屈折率材料 |
研究実績の概要 |
1方向の偏光で高屈折率かつ無反射な動作をするメタサーフェスを応用した積層構造メタサーフェスによるアンテナの設計理論の構築を進めた。次世代の高速無線通信やイメージング技術への応用に向け、金属溝構造、誘電体レンズ、導波管アンテナなどのテラヘルツ波帯の光学コンポーネントが報告されている。しかしながら、これらは複雑かつ立体的な構造を有する。テラヘルツ波を制御する平面構造の光学コンポーネントを実現できれば、光学コンポーネントを光源に集積できる。研究代表者らはこれまでに、1方向の偏光で高屈折率かつ無反射な動作をするメタサーフェスを応用した、平面構造のアンテナ(両面構造ペアカットワイヤーアレーアンテナ)の実験を報告している。しかしながら、このアンテナに用いた1方向の偏光で高屈折率かつ無反射な動作をする1層構造メタサーフェスでは、360度までの透過位相遅れは実現できていなかった。1方向の偏光で360度までの透過位相遅れを有する積層構造メタサーフェスを用いたアンテナを実験できれば、光源からの放射波をこれまでよりも広範囲で平面波に変換でき、指向性利得を向上できる可能性がある。そこで1年目は、1方向の偏光で動作する積層構造メタサーフェスによるアンテナの初期検討として、1層構造と2層構造のアンテナを設計し、指向性利得を比較した。解析により、2層構造のアンテナは1層構造のアンテナと比較して指向性利得が2.83dB向上することを確認した。本研究成果について、2021年11月に開催された国内学会テラヘルツ科学の最先端VIIIで報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1層構造と2層構造のアンテナの設計には、メタサーフェスの周期構造モデルを使用した。メタサーフェスは、誘電体基板の表裏にカット金属ワイヤーを対称に配置して構成している。誘電体基板には、シクロオリフィンポリマー(屈折率1.53+j0.0012)を用いた。カット金属ワイヤーには、銅(導電率5.8×10^7S/m)を用いた。解析には有限要素法電磁界シミュレータANSYS社HFSSを用いた。カット金属ワイヤーの長辺方向の長さと間隔を変化させることで、メタサーフェスの透過位相遅れと透過電力を制御できる。光源からの放射波の位相と理想的な平面波との位相の差から必要な透過位相遅れを計算し、配置するカット金属ワイヤーのパラメータを決定した。 1層構造と2層構造のアンテナをテラヘルツ連続発振(CW)光源を模擬した微小磁気ダイポールに装荷した場合のE面とH面の指向性利得を解析した。光源とアンテナとの距離は3mmである。解析により、1層構造のアンテナの指向性利得は、7.77dBとなることを確認した。2層構造のアンテナの指向性利得は、10.6dBとなることを確認した。アンテナの指向性利得は、微小磁気ダイポールの指向性利得の最大値を0dBとして規格化している。設計した1層構造のアンテナと2層構造のアンテナの半径と開口面積はそれぞれ1.83mmと10.5mm^2、2.26mmと16.0mm^2である。2層構造のアンテナの指向性利得が1層構造のアンテナと比較して向上した要因として、2層構造のアンテナは1層構造のアンテナ以上の透過位相遅れが実現でき、光源からの放射波がより広範囲で平面波に変換できている可能性が考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
現状で、1方向の偏光で動作する積層構造メタサーフェスによるアンテナの初期検討として、1層構造と2層構造のアンテナを設計した。解析により、2層構造のアンテナは1層構造のアンテナと比較して開口面積を1.52倍に拡大でき、指向性利得を2.83dB向上することを確認した。今後は、3層以上積層したアンテナを設計し、アンテナの積層数と指向性利得の関係について検討を進める。また、設計した1方向の偏光で動作する積層構造メタサーフェスによるアンテナを実際に作製し、テラヘルツCW光源に装荷した場合の指向性の放射パターンを測定する。以上を通して、1方向の偏光で高屈折率かつ無反射な動作をするメタサーフェスを応用した積層構造メタサーフェスによるテラヘルツ波の高効率制御の学理構築を進める。
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