研究課題
本研究では、強誘電状態から常誘電状態などへの誘電性相転移に伴う熱蛍光を実現し、放射線の線量測定における感度を劇的に上昇させることを目的とした。従来の熱蛍光体においては、放射線の照射により生じた電子正孔対の一部が、不純物(ドーパント)や欠陥などの局在中心に捕獲され、その後の加熱による再結合により蛍光(熱蛍光)を生じる。一方で、本研究で採用する誘電性相転移においては、電子や正孔の捕獲サイトのポテンシャルの顕著な変化により、捕獲されている全ての電子や正孔が捕獲サイトから離脱し、それらの再結合による蛍光が生じるため、従来の手法と比較し、熱蛍光強度が著しく増大すると期待した。この機構の導入により、従来の100倍以上の熱蛍光強度の増大を予想している。このような過程による高強度の熱蛍光の実現を通じて、蓄積型蛍光体を用いた線量測定における超高感度化を実現することを目的とした。今年度の研究では、いくつかの誘電体材料に基づく熱蛍光体を開発した。開発した材料のほぼすべてで、誘電体相転移の生じる温度で、不連続的に熱蛍光強度が低下した。このことは、誘電体相転移による捕獲サイトの束縛エネルギー変化を反映したものである。本研究の仮説の一部が検証されたこととなるものの、熱蛍光強度の不連続的な上昇を観測可能な系の探索がさらに必要である。また、今年度には、加速器施設などで使用する可搬型の熱蛍光測定装置について、その高感度化に成功した。従来の光ファイバーを介した読み出しの装置と比較し、1~2桁の感度上昇に成功した。
2: おおむね順調に進展している
誘電体相転移に伴う捕獲サイトの電子束縛エネルギーの変化を観測したという点では、仮設の検証が進んだ。今後は、誘電体相転移が熱蛍光発生にポジティブに寄与する系の探索を行う。
今年度には、誘電体相転移に伴う熱蛍光強度の不連続的な上昇を観測できる系を探索する。その上では、誘電体相転移に伴う結晶構造変化などを考察し、特に陰イオン空孔の箇所などでの捕獲電子に対するポテンシャルを想定しながら材料を設計する。
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Jpn. J. Appl. Phys.
巻: 61 ページ: SB1007
10.35848/1347-4065/ac305c
巻: 60 ページ: 92008
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