研究課題/領域番号 |
21H01856
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
石塚 知香子 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 助教 (10399800)
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研究分担者 |
湊 太志 九州大学, 理学研究院, 准教授 (00554065)
千葉 敏 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (60354883)
岩本 修 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 原子力基礎工学研究センター, 研究主幹 (80370360)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 核データ / 核分裂 / 即発中性子 / 遅発中性子スペクトル |
研究実績の概要 |
炉心設計からバックエンドまで原子力利用全分野における核分裂とその関連諸量の重要性は自明であり、その充実と信頼性向上の要請は核物理分野に向けられる。しかしその全過程においては、ほぼ経時順に①核力、②電磁気力、③弱い力と、自然界の四つの基本力のうち三つまでもが支配要因となり、この多様性が全過程の通貫した理解を妨げている。本研究では、異なった物理に支配される核分裂全過程を、一貫性を保持しつつ最新の物理理論で扱い、複合核の形成後その分断に至る核分裂ダイナミックスから遅発中性子放出の終了までを鳥瞰する視野を確立し、その成果に基づく核分裂核データ導出の基盤構築と得られたデータの提供を目標とする。
令和4年度の研究計画ではランジュバン模型による核分裂の物理シミュレーションを実施し、その結果として得られる核分裂片の質量収率や全運動エネルギーの情報をJAEAで開発しているCCONEコードなどの脱励起過程を記述するモデルに受け渡すことで、複合核形成以降の一連の核分裂過程を一貫性を保ちつつ記述できるスキームを構築することが大きな目標であった。もう1つの令和4年度の目標は、ランジュバン模型で得られる核分裂に至るまでに複合核形状の時間発展の情報を機械学習を用いて解析することで核分裂メカニズムに関する新たな知見を引き出すことであった。
核分裂過程を一貫性を保ちつつ記述できるスキームの構築は令和4年度の研究期間を二か月延長したことにより、計画どおり完了することができた。また核分裂メカニズムの解明を目指した機械学習によるランジュバン計算の解析は、従来手法と一線を画した様々な手法や指標を組み合わせて実施することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度は年末をもって雇用していた研究員が本人都合により退職となり、当初の研究計画に若干の遅れが生じる見込みであったため二か月の研究機関の延長を実施した。その結果、令和4年度に当初予定した研究内容はほぼ計画どおりに完了することができた。
具体的には令和4年度は、深層学習で得られた断裂時の知見に基づく断裂時の核分裂片間のエネルギー分配を実施し、初年度に確立した核分裂から中性子放出までの理論スキームを、国際原子力機関(IAEA)で現在評価が実施されている235U、238U、252Cfの核分裂核データを用いて最適化し、MAの中でも重要度の高い241,242m,243Am、242-246Cm、237Npに対して即発中性子数や独立収率、それに基づく崩壊熱の導出を行った。
特に本研究課題の中心的なテーマである、複合核状態から脱励起に至る一連の核分裂過程を一貫性を保ちつつ記述するスキームの構築が完成したことから、本課題はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度にあたる令和5年度では、経常4次元ランジュバンの高度化することで、核分裂時の観測量である独立収率や運動量分布の精度向上を図る。最終的にはランジュバン模型の5次元化が目標であるが、まずは4次元ランジュバン模型で固定されているパラメータを最適化し、原子力システムにおいて重要度の高い9核種の高精度計算を実施する。その結果に基づきCCONEコードなどの計算コードを用いて即発および遅発中性子収率を計算し、本課題の最終目標としている遅発中性子割合やスペクトルを導出する。
熱中性子入射核分裂に対応するエネルギーでは1核種のランジュバン計算に十分な時間が必要となるため、パラメータの最適化は一年かけて実施する。パラメータの最適化と同時並行して、炉物理およびバックエンドの観点から中性子スペクトルの評価を行うためのテスト計算を開始する。
また、本課題のもう一つの目標である、隣接する同位体間での核分裂様式の急激な変化を決定づける要素の解明をすすめるために、継続して核分裂軌道解析を実施する。
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