研究課題/領域番号 |
21H01861
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
清水 喜久雄 福井大学, 附属国際原子力工学研究所, 特命教授 (20162696)
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研究分担者 |
久米 恭 公益財団法人若狭湾エネルギー研究センター, 研究開発部, 室長 (50359238)
泉 佳伸 福井大学, 附属国際原子力工学研究所, 教授 (60252582)
松尾 陽一郎 福井大学, 学術研究院工学系部門, 准教授 (90568883)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | DNA損傷 / 線量評価 / LET / qPCR法 |
研究実績の概要 |
福島第一原子力発電所の事故以降、原子力技術や放射線を利用した産業や医療などの現場において、放射線安全・管理技術の確実な実施および向上が求められている。現在、放射線安全・管理のために、放射線量のモニタリングを目的として半導体式線量計やOSL線量計、ガラスバッジなどが実用化されている。これらの技術の原理は物理反応や化学反応を用いたものである。一方で、放射線による生体影響の要因は、DNA を中心とした生体分子の損傷、特に修復が困難であるDNA二本鎖切断が主であると考えられている。 さらに、放射線被ばく事故では多くの場合、個人被ばく線量計を携帯しておらず治療等の対応の際に必要となる被ばく線量の推定が困難になる。そこで迅速に生体試料の解析から被ばく線量を推定する方法の開発が重要になる。 そこで、本研究ではポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて、放射線によるDNA損傷を指標として、緊急被ばく時の吸収線量の評価を行うものである。従来の物理・化学反応を用いた被ばく線量測定手法と原理的に異なり、生体影響の要因となるDNA損傷に基づく評価手法を開発する。2021年度は、項目①として、PCRにより細胞中のDNA鎖切断収量を推定するための検討を行った。また、項目②実際の現場環境で求められる低線量放射線での評価が可能な方法の検討(感度の向上)として、通常は1対のプライマーを用いて1つの領域を合成してDNA量を評価するところ、2対のプライマーを用いることでPCRによって増幅するDNA領域を拡大することにより感度を向上させる方法について検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
項目1「PCRにより細胞中のDNA鎖切断収量を推定する検討」を行った。ウシ全血液に対して、ガンマ線を0.01-1Gy照射した場合のDNA鎖切断量について、デジタルPCR (QuantStudio 3D、Thermo Fisher scientific社)を用いて評価した。0.01Gyを照射した場合、有意にDNA鎖切断が生じたことを評価できた。あわせて、倒立型蛍光顕微鏡(Axio observer with Apotome3、カールツァイス社)を導入し、哺乳動物細胞であるCHO-K1細胞のDNA鎖切断頻度についてγ-H2AX 標識により評価した。次年度に、PCRによる評価とともに蛍光顕微鏡画像によるDNA鎖切断収量を評価し、相互の結果を比較する計画である。 項目2「実際の現場環境で求められる低線量放射線での評価が可能な方法の検討(感度の向上)」については、複数のプライマーを用いることで、PCRによって増幅するDNA領域を拡大することによる感度向上について検討した。2対のプライマーによるPCRを用いたDNA損傷評価により、通常の方法である1対のプライライマーによるPCRを用いた評価の場合より、同一サンプルに対して1.07倍の感度向上が示された。
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今後の研究の推進方策 |
緊急被ばく時の吸収線量の評価に適用するために残る課題としては、放射線作業環境での実用を模した試験を経て、高感度かつ迅速に、線質の異なる放射線が混在した放射線被ばく量を評価できることを示すことである。さらに、PCRによる解析結果と細胞中のDNA鎖切断がリンクして評価することができ、放射線影響すなわち実効線量を間接的に評価できることを示すことである。これらの実現のため、項目①として、細胞中のDNAの損傷分子数をPCRにより評価し、既存の方法である蛍光顕微鏡画像によるDNA二本鎖切断部位の評価結果により妥当性を評価する。放射線としては、被ばく事故の際に最も重要となるγ線を中心として実施する計画である。また項目②として、PCRに用いるDNA合成酵素(ポリメラーゼ)の正確性が異なるものを用いることで、DNA損傷の程度を評価し、感度の向上につなげることを検討する。ホリメラーゼの候補としてTaq polymerase(QIAGEN社)を選定している。また項目③として、実際に緊急被ばく時などの現場では、トリアージに結び付くような迅速な初期スクリーニングの状況を踏まえた、小型PCR装置による試験を実施する。
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