研究課題/領域番号 |
21H01862
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
吉村 崇 大阪大学, 放射線科学基盤機構附属ラジオアイソトープ総合センター, 教授 (90323336)
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研究分担者 |
兼田 加珠子 (中島加珠子) 大阪大学, 理学研究科, 教授 (00533209)
永田 光知郎 大阪大学, 放射線科学基盤機構附属ラジオアイソトープ総合センター, 助教 (10806871)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 放射線 / 発光 / イメージングプローブ / 放射性核種 / RI |
研究実績の概要 |
生体内での安定性が大いに期待され、X線励起による発光が期待できる発光性のレニウムのクラスターにがん細胞に発現するL型アミノ酸トランスポータであるL―フェニルアラニンを連結させた錯体を新たに合成した。この化合物の発光特性を調べたところ、L―フェニルアラニン部位に保護基が結合している場合は、励起三重項MLCT状態からの発光、保護基が無い場合は三重項クラスター骨格内励起状態からの発光が観測される興味深い特徴を持つことがわかった。また、酸素共存下で発光寿命の減少が見られたことから、励起3重項状態から酸素分子へのエネルギー移動が起こり、細胞殺傷能力をもつ1重項酸素が発生することがわかった。この新しく合成したレニウムクラスター錯体およびL-フェニルアラニン誘導体が配位していないレニウムクラスターの細胞毒性を調べた結果、暗所においては、クラスターの濃度増加とともに毒性が増すものの低濃度では比較的低い毒性であり、さらに光を照射することで細胞毒性が増加することが明らかになった。 ランタノイド、アクチノイドを使った発光性プローブを合成するために、本年度はピリジンホスホン酸アームが12員環に結合した配位子を新たに合成し、ランタノイドとの反応を調べた。その結果、ランタンでは10配位、プラセオジウムからディスプロシウムまでが9配位、ツリウムからルテチウムまでが8配位で、ランタノイドのイオン半径に応じて配位数が変化していくことが明らかになった。また、ランタノイドイオンのイオン半径の減少とともに結合距離も減少していくことが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
発光性レニウムクラスターでは、L―フェニルアラニンをもつ配位子が結合した錯体を新しく合成した。また、ランタノイド錯体においても、新しい配位子を設計、合成し、その配位挙動を明らかにできた。レニウムクラスターについては、L-フェニルアラニンをもつ配位子が結合した錯体と、その配位子が無いレニウムクラスターについて細胞毒性試験を行い、両者ともに暗所では細胞毒性が比較的低いこと、光を照射した場合は暗所に比べて細胞毒性が向上することを明らかにした。このことは、光照射によりレニウムクラスターからのエネルギー移動により、一重項酸素が生成し細胞毒性向上に繋がる結果と判断できる。このように今年度は、2つのタイプの金属錯体を用いて研究を進め、それぞれ特徴的な研究成果が得られていることから、研究はおおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
現在、発光性の金属錯体合成のためにレニウム単核錯体、レニウムクラスター錯体、及び環状配位子をもつランタノイド、アクチノイド錯体の3つタイプの金属錯体群で研究を進めている。この方針は、今後も続けていき、さらに強く発光する金属錯体及び環境応答発光を示す金属錯体を合成し、発光特性を評価する。加えて、これらの新しく開発した金属錯体の細胞毒性を評価する。レニウム錯体で得られた知見を元に同族のテクネチウムを用いた金属錯体を合成し、発光特性を評価する。また、ランタノイドを用いて得られた知見を元にアクチノイド錯体を合成、その発光特性を評価し、強い発光を示す放射性薬剤開発の指針を得る。
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