研究課題/領域番号 |
21H01864
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
阿部 穣里 広島大学, 先進理工系科学研究科(理), 准教授 (60534485)
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研究分担者 |
中谷 直輝 東京都立大学, 理学研究科, 准教授 (00723529)
波田 雅彦 東京都立大学, 理学研究科, 教授 (20228480)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | アクチノイド化合物 / CASPT2 / 相対論 / 量子化学 / 電子状態 |
研究実績の概要 |
アクチノイド化合物の電子状態は、顕著な相対論効果と複雑な電子相関効果に支配され、補正としての相対論効果や密度汎関数法による電子相関の取り扱いでは記述が困難となる。本課題では、アクチノイド化合物の電子状態・物性計算を可能とするための、厳密2成分相対論法(X2C法)と多参照摂動論であるCASPT2法に基づいた相対論的電子相関理論・プログラム開発を行っている。 初年度の2021年度には、相対論的量子化学のフリーソフトウェアDIRACに搭載されているX2C法を用いて、2成分法CASCI-CASPT2法が実施できるプログラムの開発を行った。特に積分データの蓄積方法や点群データの取り扱い方に注意し、DIRACで用いることができるC32h、C32、C2、Ci、Cs、C1点群に対して、いずれも正しくCASCI-CASPT2計算ができることを確認した。 開発したプログラムで円滑な応用計算ができるよう48コア、1.5TBのメモリを搭載する高性能計算機を購入した。そして実用的なアクチノイド化合物の理論計算ができるよう上記のCASCI-CASPT2プログラムの並列化を実施した。ベンチマーク計算としてUO22+分子を選び、活性空間を12電子18スピノールに設定して計算したところ、CASCIでは32コアまで、CASPT2では128コアぐらいまで並列化効率が保たれることが分かった。特にCASPT2では1コアで5.5時間かかった計算が128コアでは4分に縮めることができ、現実的なアクチノイド化合物のCASCI-CASPT2計算の足掛かりとなった。 さらにCASCIよりも大きな活性空間を用いた計算が可能なDMRG法について、DIRACプログラムをベースとして計算できるよう、プログラム開発を非相対論レベルからスタートさせた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度において、DIRACプログラムとCASCI-CASPT2プログラムの接続、およびプログラムの並列化対応が達成できたため、アクチノイド化合物の応用計算により実用的になった。実際にアクチノイドの代表分子であるUO22+を用いたテスト計算が実施できたことは大きい。また相対論的DMRGのプログラミング作成については、かなり複雑な作業が必要なため長期的に計画を立てている。2021年度は既存の非相対論のDMRGプログラムと、非相対論のDIRACの積分値を組み合わせることで、DIRAC-DMRGのプログラムが動作することが確認できた。これらは基礎固めとして重要な成果である。
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今後の研究の推進方策 |
DMRGに関しては、非相対論から相対論への拡張が重要となる。具体的には非相対論でスピン対称性や空間対称性を利用していた個所を、Kramers対称性と二重群対称性の利用に変更 し、分子軌道積分や励起配置係数などを複素数化する必要がある。 また、CASCI-CASPT2プログラムの欠点である仮想軌道の貧弱さをimproved virtual orbital法を用いて補っていく。さらに活性空間を拡張するDMRGとは異なるアプローチとして、配置に制限を設けたRASCI-RASPT2の実装を行う。これが実装されれば、実験で観測しうる励起エネルギーや結合長などの値が定量レベルで計算できると考えられる。
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